長浜さつき


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【パロへ】ブータンについて---23から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

パロのファームハウス

この日の午後、ストーンバスに入りたいかどうか聞かれた。
これは出発前にカルマからもらった旅程表にも書いてあったが、どういうものなのかイメージがわかなかった。

ジャムソーに訊ねると、焚火の中で赤くなるまで石を熱して、その石を水に入れて湯を沸かすのだという。石のミネラルが湯にとけだし、薬効がある。タクサン僧院の帰りに穴から墜落してしまったし、打ち身の手当てにはちょうどいいかもしれない。

入りたい、と言うと、ジャムソーが予約を入れてくれた。場所はパロ近郊の古い農家を改装した建物で、そこで夕食も食べるようだ。ツーリストの多いホテルのダイニングで食べるより、落ち着けるだろう。 » すべて読む

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タクサン僧院


【カルマに会う】ブータンについて---22から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

メッセージ

翌朝、モーニングコールはなかった。

目が覚めたのは5時50分。顔を洗って着替えて、ロビーに降りたのがちょうど6時だった。ロビーは常夜灯がついているだけで、フロントデスクの中で毛布をかぶった夜勤が眠っていた。ジャムソーたちはまだ来ていない。フロントデスクの横に宿泊客用のパソコンがある。昨夜は子供がゲームをしていて使えなかったが、この時間なので誰も使っていない。手元が暗かったが、タイプミスだらけの短いメッセージを友人宛に送った。

…ブータンの首都、ティンプーから。明日、ブータンを発つ…帰宅は金曜日の夜…

永遠に続く旅なんてない。もうすぐ帰宅するのだ。

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ティンプーの目抜き通りを歩く人たち


【首都、ティンプー】ブータンについて---21から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

午後の街で

午前中に見学した工場で作ったお線香を売っている店があるというので、食後に出かけた。これも雑居ビルの2階にある、小売店というより卸売りの問屋のような、薄暗くて活気のない場所だった。帳簿係の女性が一人いるだけだ。お線香はたくさんあったが、何も表示がなくて、どういう種類のお線香で値段がいくらなのかわからない。商売っ気はまるでなかった。
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ティンプー、遠景。ぼんやり霞がかかっている。


【プナカへ】ブータンについて---20から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

首都へ

ドチュラの峠からティンプーまで、そんなに遠くない。最後の通行止め地点を通過し、車は順調に走り出す。疲れていても、都市に到着するという高揚感があった。そしてジャムソーたちの、久しぶりに帰宅するという安堵の気持ちを、私も感じとることができた。

山道はいつの間にか舗装の整った高速道路になった。両側の山肌を埋める建物が見る間に増える。ティンプーは山にはさまれた平原に発展した都市だ。東京やバンコクのような密度はなく、ちょっとスカスカした印象だったが、それは紛れもない『都市』で、高速道路はその真ん中に滑り込んでいった。

この国に、こんな所があるんだ!

2週間前にサンドゥルップで入国して以来、ずっと小さな村や町を旅してきた。ジャムソーは、ブータンの都市はティンプーだけであとはみんな『町』だと言っていたが、それは本当だった。

ティンプーは別格だ。
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丘の上にあるチミラカンの寺。周囲は公園のようになっていた。


【プナカへ】ブータンについて---19から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

チミラカンの寺で

プナカゾンを見学できないのは、残念というより、そういう巡り合わせのような気がした。もしかしたら将来、年取ってから来ることがあるのかもしれない。あるいは、見る必要のない場所なのかもしれない。

SUVに乗り込み、チミラカン寺のあるメッシナに向かう。プナカからは少し距離があり、ティンプーへ向かう途中だ。ネテンが道路沿いに車を止め、そこからチミラカンまで、水田の間を通る村の道をジャムソーと歩く。プナカゾンと同様、ここもいちおう観光スポットだ。車を止めて、さらに歩かなくてはいけないから、周辺が観光客でごった返しているということはないが、ガイドに付き添われた欧米人シニアのカップルがちらほら参拝している。

私もいずれは年を取るからこんなことを考えてはいけないのだが、どこもお年寄りのツーリストばかりで、それを眺めていると自分まで老け込んだ気分になる。ガイドに手を引かれた白人のおばあさんが、寺へ続くゆるい坂道を大儀そうに上って行く。

東ブータンでトレッキング中に出会った、時には幼いと思えるほどの顔立ちの人たちが懐かしくなった。

この日はジャムソーはおとなしく、落ち着いた様子だった。食事の場所についてリクエストを出すにはいいタイミングかもしれない。歩きながら、切りだした。
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ブンタンの町の郵便局

【ガイドたち、ツーリストたち】ブータンについて---18から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

ブータン人のふりをして

9時過ぎにホテルを出発。この日の目的地のプナカへ向かう前に、ブンタンの町の郵便局でポストカードを投函した。車に乗り込み出発しようとすると、一人の男性がネテンに話しかけてくる。ゾンカ語で話しているが、「プナカ」と言っているのは聞き取れた。ネテンとの短いやり取りのあと、どうしてなのかわからないが、男性は会話を英語に切り替えた。

「カネは払う」
「ゲストがいるから、ダメだよ」

ネテンも英語で返事した。男性が車の中をのぞき込む。私と目が合うと、何やら納得した様子だ。あきらめ顔で車から離れて行った。ネテンはギアを入れ、車は走り出した。
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ブンタンの町

【ブンタンへ】ブータンについて---17から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

ブータン人専用席

SUVに乗り込み、次の目的地のジャンベイ寺院へ向かう。ここは僧院だ。お堂の中から、大勢のお坊さんが読経する声が聞こえる。私が中に入ったのは、ちょうど読経が終わるあたりだった。時計を見ると12時だ。もうそんな時間かと思う。法要でもあったのか、のどかな広い境内で、お坊さんたちが地元の人々に食事を振舞っていた。見学が終わると私たちも車に乗り込み、ブンタンの町のレストランへ向かった。ランチ休憩だ。
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モンガー、早朝

【モンガーへ】ブータンについて---16から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)


東から中央へ

閑散としていても、モンガーのホテルはトラシガンで滞在したホテルより設備がよかった。見晴らしのよい角の部屋でよく眠ったが、夜明け前に目が覚める。

瞑想し、外が薄明るくなる頃、窓の外の景色を写真に撮った。

東ブータンでの滞在も終わりだ。ツーリストの存在感が薄い東ブータンを離れるのは名残惜しかった。今日はブンタンまで移動する。中央ブータンの中心地、地図で見てもブータンのほぼ中央だ。

今日の日程は移動時間が長い。早いうちに朝食をすませ、SUVに荷物を積み込む。車がきれいになっていた。昨夜、夕食のあとネテンが車を洗ったのだという。一緒に移動していると友だち気分になってしまうが、仕事の旅行はやはり大変だ。

モンガーを出て、しばらく穏やかな田園風景を眺めながら走ったが、道は徐々に標高を上げる。周りじゅう霧に包まれ、視界が開けない。ただ、道路の整備状況は東ブータンより若干いいような気がした。少なくとも、道路工事で通行止めになっている所はなかった。それでもシンゴルという場所に着き、昼食だよと言われたのは、昼もだいぶ過ぎた頃だった。
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モンガーの町

【トレッキングの終わり】ブータンについて---15から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)


 助手席でうたう歌

翌朝、ホテルの人たちに見送られて出発した。過ぎ去ったものに執着するのは意味がないと頭ではわかっていても、トレッキングの日々が懐かしかった。

ブータン滞在はまだ半分残っている。
この半分で、自分が経験できることは何なのか?

ブータンの旅行は移動時間が長い。移動距離は短くても、カーブの多い山道は工事をしている所や路面が整っていないところが多くて、時間がかかる。ネテンはいつも、MP3プレイヤーをカーステレオにつないで音楽を聴いていた。ブータンで流行っている歌なのだろうか、やさしい男性のヴォーカルと過剰に女性的な女性ヴォーカルのデュオで、シンプルなアレンジだ。初めて聞いた時は、ブータンの人はこんなに甘ったるいものを聞いているのかと辟易してしまった。でも不思議なもので、いつも聞いていると好きになる。
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馬と一緒にフォメイへ向かう女の子

【ジョンカーテン】ブータンについて---14から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

村人の通る道

朝、目を覚ました。ということは、ちゃんと眠ったのだ。
私の身体はようやくブータンで眠ることを覚えたのだろうか。

キャンプ地のジョンカーテンからトレッキング終点のフォメイまでは遠くない。リラックスしたような、気が抜けたような気分で出発した。キャンプサイトからしばらく歩くと小さな集落があった。ジョンカーテンの村だ。昨夜キャンプサイトを訪ねてきたノルブは、今ごろ学校で授業中だろうか。

村を過ぎ、トレイルは深い木立の中を通って行く。馬を連れた若い女性がいた。馬に積んだ荷物がずれてしまい、うまく直せないのだという。シリンとジャムソーが手伝って、荷物を直した。シリンはジョンカーテンの出身だ。この女の子は、ノルブの姉なのだという。そういわれれば、優しそうな顔立ちがノルブと似ていた。

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