本当は、ピックアップを運転するギレが夜のうちにここガサへ到着する予定になっていた。ところが土砂崩れで道路が不通になってしまい、かわいそうに車中泊しなければならなかったようだ。翌朝になっても道路が開通したのかどうかわからなかったが、昨夜食事をしにきていた若者が運転する大きなトラックに乗せてもらい、出発することになった。
昨晩、マイラは馬を連れてパロに戻る、と聞いていたけれど、出発するトラックにはマイラと9頭の馬たちも乗っていた。ジャムソーによると、馬と一緒にパロまでトラックで帰れるようにしたのだという。詳しくは聞かなかったけれど、ジャムソーがネテンに、パロへのトラック輸送の費用を出すように交渉したのではないかと私は思う。オペレーターが個人的な知り合いだとそういうこともできるかもしれない。ガサからパロまで車でも丸一日かかる距離だ。トレッキングルートとは違う歩きやすい道があるのだろうけど、馬を連れて歩いて帰るんじゃ大変だ。ネテンの取り分は減ってしまうのかもしれないが、良かったなと思った。
長浜さつき
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【旅の終わり】ブータンについて---38
- 2017年01月15日 23:01
- ブータンについて
- エッセイ
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【コイナからガサへ】ブータンについて---37
- 2016年12月09日 16:19
- ブータンについて
- エッセイ
朝。
雨は上がったけれど、霧が深い。
交易所の建物の外に大きな流しがあり、ホースからいつも水が出ていた。きっと山の水をそのまま引いているのだろう。そこで顔を洗った。深い森の中に送電線の鉄塔が立っているのが見えた。
きょうはトレッキングの最終日だった。朝食をすませて、9時過ぎにコイナを出発する。待っていた荷物が到着しなかったのか、昨日話をした男性がまだ滞在していて、私たちを見送ってくれた。
「Be stroing, be heatlhy」
と彼は言った。それは単なる挨拶などではなく、文字通りの意味だった。病気になってから、それをずっと実感させられている。ここでは、強く健康でなければ生きていけない。
でも、私は強くなければ健康でもなかった。思わず考え込んだ。
こんなことで、生きていけるのだろうか?
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【ラヤの村、コイナへの道】ブータンについて---36
- 2016年11月24日 03:44
- ブータンについて
- エッセイ
民家に戻ると、はしごのような階段で2階へ上った。敷居や扉がやたらに多い建物で、懐中電灯の光を頼りに壁につかまりながら歩くあいだ、あちこちでつまずいた。
通された部屋は、訪問客を泊めたり普段は使わないような家財をしまうのに使っているようで、私はこの部屋で寝ることになった。部屋の隅にはウレタンの入ったマットレスやブランケットが積まれている。そのマットレスを一枚借りて床に敷き、上に寝袋を広げた。チュンクーが湯ざましの入った魔法瓶を持ってきてくれた。チームのみんなはこの部屋の真下にある部屋を使うのだと教えてくれた。
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【ラヤへ】ブータンについて---35
- 2016年10月12日 17:09
- ブータンについて
- エッセイ
6時半出発なんて、到底無理だった。
発作的な高熱がおさまるのに、2時間くらいかかるんじゃないかと思った。
ここから終点のガサまで、まだ3.5日分の道程が残っていた。
ガサまで行かないと、自動車の通れる道はない。トレッキングを中断して車で移動する、という選択肢はないのだ。状況によっては予定通りに帰国できないかもしれない。 » すべて読む
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【シャリジタングの牧草地】ブータンについて---34
- 2016年09月23日 05:30
- ブータンについて
- エッセイ
テントの中が明るくなるころ目を覚まし、いつものように短い瞑想をした。そして出発の時に慌てないよう、洗面する前に寝袋や着替えをダッフルバッグにしまおうとしたが、全然はかどらない。だるいということはないけれど気力も集中力も続かない。
何かがおかしかった。
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【ググラ、シャギパサ、キャンプファイヤ】ブータンについて---33
- 2016年09月03日 05:36
- ブータンについて
- エッセイ
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)
まだ暗いのに、誰かがお経を唱えながらプレイヤーホイールを回しているのが聞こえた。プレイヤーホイールが回るたびに、ベルがチーンと澄んだ音をたてる。しばらくすると鳥の鳴き声が聞こえてきた。そして、テントの中がほんわり明るくなってくる。トレッキングも6日目で、こんなふうに目を覚ますのが当たり前になってしまった。
朝7時、外に出してもらったテーブルで、いつものようにドルジが作ってくれた焼飯と玉子で朝食にした。山に囲まれたチェビサに朝日が射し込むのは遅く、その頃になってようやくキャンプ地も明るくなってきた。よく晴れた空で、好天の一日になりそうだった。
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【チェビサの村】ブータンについて---32
- 2016年08月08日 02:47
- ブータンについて
- エッセイ
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)
リンジのキャンプ地には、私たちを追い抜いていったトレッカーたちのグループがいると思ったのだが、着いてみると姿が見えなかった。リンジから南へ向かい首都ティンプーを目指す彼らは、別の地区でキャンプをするのだとジャムソーが教えてくれた。他方、私たちはこのままラヤまで東へ向かうことになる。
キャンプ地に到着したのは午後3時半くらいだった。ジャンゴタングを出発したのが朝7時半だからずいぶんかかってしまったけれど、何しろ途中の時間のつぶし方が半端ではなかった。そしてこの日の歩行距離は21キロ。峠越えの標高差が大きかっただけでなく、歩いた距離も長かったのだ。 » すべて読む
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【リンジのキャンプ地へ】ブータンについて---31
- 2016年07月20日 14:01
- ブータンについて
- エッセイ
【ジョモラリキャンプ】ブータンについて---30から続く
私がひとりでトレッキングを計画したのだと言うと、どうやって手配したのか聞かれた。私はひとりなのでブータン人のチームメンバーと交流する機会には事欠かなかった。ローカル志向の強いトレッカーには、うらやましい条件だったのだと思う。
トレッキングのグループが何組もいるので、キャンプ地には荷役の馬もたくさんいた。そのうちの一頭が、立ち話をする私たちの所に来た。馬たちはおとなしい。この馬もおとなしくて、トレッカーたちは口々に「かわいい」と言いながら馬を撫でた。
確かに馬たちはいつも静かで従順で、「かわいい」と言ってもいいのかもしれない。馬はブータンの山や村の生活に欠かすことができない存在で、人々は荷物を積んだ馬と歩き、苦労を共にする。かわいがるためだけの愛玩動物とは違うし、馬たちと本当の苦労を分かち合っているわけではない私に、無責任な愛情を注ぐ資格はないような気がした。だから私は、その馬を撫でなかった。 » すべて読む
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【ジョモラリキャンプ】ブータンについて---30
- 2016年07月05日 14:53
- ブータンについて
- エッセイ
【トレッキングの仲間】ブータンについて---29から続く
トレッキングのグループには通常2~6人程度のトレッカーがいて、彼らにガイド、トレッキングコック、ホースマン、アシスタントが同行する。トレッカーの人数が多ければ、サブのガイドやアシスタントがつく。グループが大きいと当然キャンプ装備も多く、それを運ぶ馬の数も多くなり、場合によってはかなりの大所帯になる。 » すべて読む
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【トレッキングの仲間】ブータンについて---29
- 2016年06月21日 12:39
- ブータンについて
- エッセイ
【チェレラの峠】ブータンについて---28から続く
朝7時、ネテンの運転するSUVでパロのホテルを出発した。西へ向かって30分ほど走ったところに集落があり、ネテンはそこでSUVを停めた。一年半前のトレッキングの時にアシスタントをしてくれたギレが待っていた。懐かしくて、思わず記念撮影する。もう会うことは無いだろうと思っていたけれど、行動さえすれば、またこうやって会うこともできるのだ。
10時少し前、やっとシャナに到着した。トレッキングのクルーが調理や食事、そして夜寝る時に使う赤いテントが張ってあって、その中から、ドルジが出てきた。こちらも前回のトレッキング以来で、言葉はあまり通じないけど再会を喜び合った。ジャムソー同様、ドルジも勤めている旅行会社の仕事を休んで、私のトレッキングに同行してくれたのだ。 » すべて読む
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- 東間 嶺が寄稿しました
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- 2016-04-01
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- 荒木 優太が寄稿しました
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- 出版:yoichijerry
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