(前編から続く)
今の会社に入社して最初の一週間は研修だった。会社のことだけじゃなく、ティフアナでの運転や電話のこともいろいろ教えてもらわないといけなかったので、マンツーマンでトレーナーがついてくれたのはありがたかった。
私が使っているアメリカの携帯電話は、国境を越えたメキシコでは電波を受信しない。なので、携帯電話ショップに連れて行ってもらって、メキシコの安価な携帯電話を購入した。その帰り、コンビニに寄ってコーヒーを買ったのだが、私の財布には大きな金額の紙幣しかなく、コーヒー代を払う小銭がなかった。
ここでトレーナーにコーヒー代を払ってもらうのに言い訳をする必要はなかったのかもしれないけど、当たり前みたいな顔をするのも嫌だったので、彼に「国境の人たちにあげちゃったんで、小銭がない」と言った。
「あんな奴らに金をやっているのか?」
彼は呆れたように言った。