山口倫太郎



 2016年4月27日、内山高志は自身の持つWBAスーパーフェザー級世界タイトルの12度目の防衛戦の挑戦者として暫定王者ヘスリール・コラレスを迎え、僅か2ラウンドでタイトルを失った。ファン・カルロス・サルガドからタイトルを奪ったのが2010年1月11日だから、六年以上の長きに渡って防衛したタイトルを僅か六分で失った事になる。
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 持ち込みのハイボールを飲みながらウルフルズの『ええねん』を歌っていて、ふと昔テレビで見た音楽番組のあるシーンを思い出していた。出演者のミスチル・桜井和寿は、直前にウルフルズのトータス松本が歌った『ええねん』の感想を、絞り出すように司会のタモリにこう漏らしたのだ。

「『ええねん』を聞いていると、自分はなんでこんなに小難しく歌詞をこねくりまわして作ってるんだろうと思えてくる」
 
 細かい言い回しは違うかもしれないが、桜井が自嘲的にそう語っていたのをよく覚えている。

  ……因みに、この『ええねん』とは、様々な悩み・問題を並列的に配置して、必殺ワードの「ええねん」の連発で全てを笑い飛ばしてしまおうという実に爽快な歌である。
 

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 無沙汰してます。前回の更新から随分と間が空いてしまいました。

 さて、今回は以前ご紹介した『フルートベール駅で』の制作者だったフォレスト・ウィテカー繋がりという事で、『大統領の執事の涙』を紹介します(この作品で、ウィテカーは主演を務めています)。タイトルに「涙」と入ってますが、安っぽいメロドラマではありません。

 監督はリー・ダニエルズ。共演で印象的なのは、ウィテカー演じるセシル・ゲインズの妻役で、高名なトークショーの司会者でもあるオプラ・ウィンフリーです。「アメリカで最も影響力のある女性の一人」と言われる彼女ですが、演技も達者だったんですね。この『大統領の執事の涙』でも良い仕事をしています。他には、一昨年の夏に自殺してしまったロビン・ウィリアムズがアイゼンハワー大統領役で出演しています。

 内容をザクッと説明すると、「七人のアメリカ大統領に仕えたホワイトハウスの執事が黒人大統領の誕生を目にして涙するまでの物語」です。
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 考えてみると、あれはもう15年近くも前の事になる。タイの首都バンコクにあるチュワタナジムの周辺をジムメイト達と走っていた早朝の事だ。ポツポツと落ちだした雨は十五分程経った頃には本降りといった様相で、その間にジムメイト達は、一人また一人とランニングコースを外れていく。けれども試合の近かった僕はどうしてもノルマをこなしたかった。

 一人きりでロードワークを続けていると、ジムまでの帰り道で足を止めて待ってくれているジムメイトが居る事に気付いた。彼は雨粒に顔をしかめながら、両手で肩を抱いて身をすくめる、恐らくは万国共通の、あの震えるようなジェスチャーをして僕を心配そうに見詰めていた。勿論――雨で体が冷えるぞ――の意味だが、彼の気遣いに感謝しながらも「大丈夫だ」と手で示して、「ありがとう」の意味で笑顔を返した。


  
※ ネットでヨドシンを観ることができる、西岡との一戦。この試合も痛烈なKO負けだった。 
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 つい2週間ほど前、とある大学の通信教育課程を卒業した。七年という長きに渡る苦闘の末で、これが嬉しくない筈がない。特に最終年度は福岡の学生団体の会長を務める事になり、業務の遂行は悩ましい事の連続で、僅か三十人程の小さな会を纏めるのにもこれ程面倒なのかとため息を吐く事も多かった。そういうわけだから、これが(再度だが)嬉しくない筈がない。 » すべて読む


 
 今回紹介する『フルートベール駅で』も、前回取り上げた『それでも夜は明ける』と同様、実話が基になっています。この映画の事を知ったのは、資料として参照したWikipediaに、サミュエル・L・ジャクソンによる以下の発言が紹介されていたからです。


 
「『それでも夜は明ける』こそ、アメリカの映画界が人種差別に真摯に向き合おうとしていないことを証明している。もし、アフリカ系アメリカ人の監督が本作を監督したいといっても、アメリカの負の歴史を描くことにスタジオが難色を示すであろう~(中略)~過去の奴隷の解放を描いた本作よりも、現代における理不尽な黒人殺害事件を描いた『フルートベール駅で』を作ることの方が勇気のいることだ」

――Wikipedia「それでも夜は明ける」より、【著名人の反応】から抜粋。
 

 
 この映画は、2009年1月1日に起こった黒人青年射殺事件(参照:AFPニュース)が題材になっています。事件後には全米規模で抗議集会が開かれ、一部では暴動になるなど大きな騒動に発展しました。

 作品の構成は至ってシンプルです。まず、主人公のオスカー・グラント(マイケル・B・ジョーダン)が射殺されるという事件のクライマックスが冒頭に置かれています。そして、その日の朝まで一気に時間を遡り、そこから《その時》までを時系列順に追っていきます。単純といえば単純ですが、冒頭のシーンがあまりにも衝撃的な為、観客はのっけから映画の世界に引き込まれてしまうでしょう。

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 日本では2014年、アメリカでは2013年に公開された英米合作映画です。監督は気鋭のスティーブ・マックイーンで、主人公をキウェテル・イジョフォーが演じました。アカデミー作品賞と、助演女優賞(ルピタ・ニョンゴ)で二冠を獲得、ゴールデングローブ賞など他にも受賞多数で、映画好きなら見ていなくても気になっていた人は多いのではないでしょうか。 » すべて読む
 


 最近『大統領の執事の涙』と、『それでも夜は明ける』を立て続けに見ました。両者とも凄く良い映画で色々と考えさせられたんですが、そこでふと「そういえば、去年一番良いと思ったのは『ジャンゴ』だったな」と思いだしたんです。前の二つは黒人差別(奴隷問題)が主題の実話を基にした映画ですし、タランティーノの最高傑作『ジャンゴ』は血が乱れ飛ぶ西部劇ですが、やはり黒人差別は明確なテーマとして物語の背景になっています。更に言えば、好きな映画を聞かれたとき答えるお気に入りの一つにエドワード・ズウィックの『グローリー』があります。これは南北戦争で奴隷解放を求めた北軍の黒人部隊のお話です。デンゼル・ワシントンがスターダムにのし上がった映画で、これも非常に感動的で素晴らしい作品です。


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ドレフュス事件をめぐって二分する世論を風刺した漫画( 出典:Wikipedia )


――われ弾劾す!

 これは19世紀末のフランスのある新聞に掲載された、作家のエミール・ゾラによる大統領宛ての公開質問状の見出しである。ゾラは、当時世間を騒がせた所謂ドレフュス事件において、証拠不十分のままスパイ容疑で逮捕されたユダヤ人のドレフュス大尉を弁護する為に、軍部を批判してこの質問状を作成した。この事件の背景には、西洋キリスト教社会に根深いユダヤ人差別がある。この事件についての世論は当時真っ二つに分かれたが、ドレフュスを罰するべしという意見の中には「ドレフュスが本当に犯人であるかどうかよりも、国家の威信を守る事が重要なのだ」というものまであったそうだ。

 さて、ではボクシングの話をしたい。昨年12月3日に行われたIBF王者亀田大毅とWBA王者リボリオ・ソリスのスーパーフライ級統一タイトルマッチをめぐる一連の騒動について、だ。ご存じ無い方の為に試合前日の計量から1月10日の倫理委員会までの経緯を説明しておくと、大体以下のようになる。

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 『ロベルト・デュラン "石の拳" 一代記』
クリスチャン・ジューディージェイ (著), 杉浦 大介 (翻訳) 

 
 四階級で世界タイトルを獲得したパナマの名ボクサー、【石の拳】ロベルト・デュランの伝説に彩られた人生を余すところなく描いた評伝が本書である。著者であるクリスチャン・ジューディージェイは、一つの事件に複数者の視点を当て、更には一族の逸話まで追い駆けてこの作品を完成させている。その情熱は至るところから感じ取る事が出来るが、それが空回りとなっていないのは、まるで優れたアウトボクサーのように対象と適切な距離を保ち続けたからだ。原題は『”HANDS of STONE” The Life and Legend of ROBELTO DURAN』。杉浦大介氏はそれを『ロベルト・デュラン【石の拳】一代記』と読み替えた。訳のセンスも素晴らしいが、ニューヨークで活動した元アマチュアボクサーである訳者のボクシングに対する情熱と知識も著者に劣らないであろう。それらが日本語版を見事に完成させる原動力となった事は想像に難くない。 » すべて読む
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