山口倫太郎

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毒入りのオレンジは藪の中

 『狂気に生き』(1986/新潮社)は、今や時代劇作家として高名な佐伯泰英が手がけたボクシング・ノンフィクションである。
 つい先日、この本を約20年振りに読了した。約20年前の私は、メキシコで知り合ったあるボクシング関係者からこの本を勧められ、彼のコレクションを一時拝借して読みふけったものだった。久し振りに読みたいと思ったのは、私の興味が、ボクシングそのものよりも、制度や業界の裏側に移っていったという事があるだろう。
 
 この作品は、第一部「パスカル・ペレスへの旅」、第二部「疑惑のタイトルマッチ」の二部構成で書かれており、戦後まだ間もない焼野原の状態であった日本ボクシング界から、メキシコ、アルゼンチン、ベネズエラを経由し、当時週刊文春の記事によって世間を騒がせていたいわゆる『毒入りオレンジ事件』を睥睨する怪作である。

 再読してみて、殆どを忘れていた事、そしてここで提示された問題が現在も未解決である事に気付かされた。
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(写真撮影=山口倫太郎、デジタル画像編集=東間 嶺。以下全て同じ)



熊本滞在最終日---2016/5/23

 正式には『水前寺 "公園" 』ではなく、『水前寺 "成趣園" 』と呼ぶのだそうだ。
 熊本に向かう数日前、あるテレビ報道で〈奇跡〉という言葉が添えられたこの公園の名を目にした。

 地震はこの公園にも多大な影響を及ぼした。
 公園の見物の一つとして豊かに水を湛えた広大な池があるのだが、地震後に起こった水位の低下で底が殆ど露出してしまい、営業は休止に追い込まれた。
 しかしそれからほどなくして、理由も分からぬままに自然と池の水が戻り始めたという。原因は不明ながらも、県はすぐさま無料での営業再開を決めた。
 
 水が戻ってきた事を奇跡と捉え 、震災で意気消沈している人々を元気づけようという事なのだろう。僕には、それは中々良い発想に思えた。 

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 その印象のせいか、朝目覚めた時には、最後の一日は水前寺公園で過ごす事に決まっていた。ゆっくりと朝を過ごしてからサウナをチェックアウトし、近くのバス停から水前寺公園前まで向かう。バスから降り、無料開放の看板を確認すると、躊躇うことなく裏口から入園した(というか、ぐるぐる回っていたらいつの間にか裏口まで来ていた)。 
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(写真撮影=山口倫太郎、デジタル画像編集=東間 嶺。以下全て同じ)


熊本市---2016/5/22

 僕は5月19日から四日間に渡り、熊本県各地でボランティア活動に参加した。その最終日が、この5月22日であり、その場所が熊本市という事になる。
 集合場所のボランティアセンターは、中心地にある『花畑広場』という公園に設置されていた。

 熊本に到着した当日、友人とのドライブがてらに場所を教えて貰っていたので、ここに集まるということは調べるまでもなく知っていた。広場では普段から様々なイベントが開催されているようで、市民の憩いの場といったところなのだろう。
 
 広場は熊本新市街と交通センター(高速バスと路線バスの発着の中心地だ)に挟まれており、全国から集まるボランティア参加者にとって、利便性という点でこれ以上ない立地条件と言えるだろう。旅を通じて市内のサウナに宿泊していた僕にとっては、今回のボランティア活動で最も楽な移動となった。

 既に半年も前になってしまったので、いささか曖昧だが、サウナから広場までは、確か路面電車(でなければ市バスか)を利用しての移動だったと記憶している。開始時間は九時で、恐らく一時間位は早く広場に着いていた筈だ。

 にも関わらず、その時広場では既に多数の人々が長蛇の列を作り、中心地に向かってとぐろを巻いていた。九時の受付開始少し前からそのとぐろはうねうねと蠢き出すのだが、流れは公園の周囲を蛇行しながらのろのろと進み、やがて地下駐車場の通路に潜り、それからようやく幾つも建てられているテントの中に入るという有様だった。

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宇士市役所遠景(写真撮影=山口倫太郎、デジタル画像編集=東間 嶺。以下全て同じ)
 この日は宇城市に決めていた。一日目の益城町と二日目の西原村では幸運が続き、辿り着くだけで大変だと考えていたそれぞれのボランティアセンターまで簡単に行きつく事が出来たが、この日は例え昨日一昨日のような幸運が目の前に降ってこようとも、「独力で宇城市のボランティアセンターに行くぞ!」と決めていた。
 ……とは言っても、宇城市では、ボラセンから最寄りのJR松橋駅まで毎日行き帰り二本の送迎バスが出ている。
 
 いつもよりもゆっくりと起き出し、のんびりと朝風呂に浸かった。朝飯はコンビニで買って手早く済ませたが、いつもより一時間以上余裕をもって寝起きの一時間を過ごす事が出来た。

 JR熊本駅で旅行鞄をコインロッカーに預け、デイパック一つで松橋駅へ。乗換はなしで、時間にして二十分ほどだ。駅からは、ボランティアセンターまでの送迎バスが毎朝二本出る。僕が乗ったのは一本目。時間は確か、7時40分発だっただろうか。
 大体でニ十分程でボラセンに着いたように覚えている。

 送迎バスといいスムーズな受付け作業とマッチングといい、それぞれがまるで流れ作業のように進んでいく。宇城市のボランティアセンターはとても効率よく運営されているという印象を受けた。
 送迎バス待ちの際に少しだけ話をした男性――確か東北の方だったと思う――が、「ここには早くから福島のボランティアスタッフが入ってるからね」と教えてくれたことを思い出した。
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無職を利用してボランティアに行ってきた-1から続く)

西原村―2016/5/20

 さて、今日は何処に行こうか。
 西原村のように辿り着くまでに骨が折れそうな所は最後に回して、やはりJR松橋駅までの送迎がある宇城市かな?と、目覚まし代わりの軽い朝風呂の後で、荷物を整理しながら考えていた。

 その時、「今日は何処に行くんですか?」と、同じく荷物を整理していたボランティアと思しき男性に声を掛けられた。彼は僕より少し年上、四十代半ばといった所だろうか。「送迎があるんで、宇城市にでも……」と言ってから同じ質問を返すと、彼は「昨日もなんですけど、今日も西原村に行こうと思ってます」と答えた。

 僕は<チャンス!>とばかりに、「どうやって行かれるんですか?ボラセン(ボランティアセンターの略)遠いですよね?」と聞いてみた。そうして返ってきた予想通りの「車で来てるんで車で」という回答に、僕は「乗せて行って貰えないですか?」と間髪入れずにお願いすると、彼は目を丸くして、「え?宇城市に行くんじゃないの?」と驚いていたが、「本当は西原市に行きたかったんですよ。でも西原市は足が無いと難しいので、宇城市にしようかと考えていたんです。宇城市は駅からの送迎があるので。でも、もし良ければ……」と事情を話したところ、快諾してくれた。

 車中で自己紹介をすると、彼と僕は同じく福岡、しかも同じ福津市在住との事だった。それから、彼の苗字は昨日車に乗せてくれた方(この方も福岡在住だった)と同じで、おまけに僕と同じく現在求職中だった(以降この男性をM氏と呼ぶ事にする)。

 西原村のボランティアセンターは開くのが遅いそうで、コンビニに寄って朝飯を食べると、ドライブがてらに西原村の周囲をグルっと回る事になった。道中では仮設住宅が建築中だったが、これが仮設といった雰囲気はなく、むしろしっかりとした普通の木造二階建てといった感じで驚かされた。

「高齢者が多いだろうし、長丁場になるだろうという事からですかね?」とM氏に意見を聞いてみると「うん、それか、後に転用するとか?それにしても立派だよね」と返ってきた。

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益城町のボランティア受付センター。株式会社井関の熊本製造所グラウンドにて
(撮影:山口倫太郎、デジタル補正:東間嶺。以下すべて同じ)


(無職を利用してボランティアに行ってきた-から続く)

益城町―2016/5/19

 夕食の後、車で駅近くのサウナまで送って貰ってから友人と別れた。
 
 サウナは価格と中心地に近いという利便性の面から、宿泊先として予め目星を付けていた所だ。電話では、「ボランティアの方は半額」と聞いていたが、いざ到着するとボランティア参加前には適用されないという。事前にボランティア保険に加入している事もあり、何となく釈然としない感じがした。福岡から電話した際に説明があれば何の問題も感じなかったのだろうが。

 それに、このサウナのフロントは少々対応が良くないようにも思った。恐らくフロントの責任ある立場であろう痩せた黒縁眼鏡は――元々そういうタイプなのかもしれないが――笑顔どころか訝し気な表情で対応する。ボランティアを目の敵にしているというわけでも無いのだろうが、何かこちらが悪い事でもしているかのような気になってくる。
 それでも他を探すのは面倒だったので、そのまま泊まる事にした。
 
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(撮影:山口倫太郎、デジタル補正:東間嶺。以下すべて同じ


2016/5/18

 夕食にはまだ早い時間だったので、熊本駅に着くなり友人がドライブに連れ出してくれた。数度目の渋滞に巻き込まれた時、友人はため息交じりに「最近また車が増えた」と嘆いてみせた。

 車は熊本市内を抜けて益城町に入った。先程までとは打って変わって、一目で分かる被害の大きさに僕は言葉を失った。しばらく走ると、やがて緑豊かな広大な土地に出た。この辺り一帯は再春館製薬所の敷地だそうだ。ここでは昨年末まで毎年クリスマスシーズンにイルミネーションが設置されたが、残念ながら2015年をもって終了してしまったという。
 本来ならばこういう時にこそ、と思わないでもないが、どうやら物凄い労力が必要らしい。きっとその労力は復興や、自社、並びに地域の活性化に使われるのだろう。
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 2016年4月27日、内山高志は自身の持つWBAスーパーフェザー級世界タイトルの12度目の防衛戦の挑戦者として暫定王者ヘスリール・コラレスを迎え、僅か2ラウンドでタイトルを失った。ファン・カルロス・サルガドからタイトルを奪ったのが2010年1月11日だから、六年以上の長きに渡って防衛したタイトルを僅か六分で失った事になる。
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 持ち込みのハイボールを飲みながらウルフルズの『ええねん』を歌っていて、ふと昔テレビで見た音楽番組のあるシーンを思い出していた。出演者のミスチル・桜井和寿は、直前にウルフルズのトータス松本が歌った『ええねん』の感想を、絞り出すように司会のタモリにこう漏らしたのだ。

「『ええねん』を聞いていると、自分はなんでこんなに小難しく歌詞をこねくりまわして作ってるんだろうと思えてくる」
 
 細かい言い回しは違うかもしれないが、桜井が自嘲的にそう語っていたのをよく覚えている。

  ……因みに、この『ええねん』とは、様々な悩み・問題を並列的に配置して、必殺ワードの「ええねん」の連発で全てを笑い飛ばしてしまおうという実に爽快な歌である。
 

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 無沙汰してます。前回の更新から随分と間が空いてしまいました。

 さて、今回は以前ご紹介した『フルートベール駅で』の制作者だったフォレスト・ウィテカー繋がりという事で、『大統領の執事の涙』を紹介します(この作品で、ウィテカーは主演を務めています)。タイトルに「涙」と入ってますが、安っぽいメロドラマではありません。

 監督はリー・ダニエルズ。共演で印象的なのは、ウィテカー演じるセシル・ゲインズの妻役で、高名なトークショーの司会者でもあるオプラ・ウィンフリーです。「アメリカで最も影響力のある女性の一人」と言われる彼女ですが、演技も達者だったんですね。この『大統領の執事の涙』でも良い仕事をしています。他には、一昨年の夏に自殺してしまったロビン・ウィリアムズがアイゼンハワー大統領役で出演しています。

 内容をザクッと説明すると、「七人のアメリカ大統領に仕えたホワイトハウスの執事が黒人大統領の誕生を目にして涙するまでの物語」です。
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