小説


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(写真:東間 嶺。以下すべて同じ)

中村さんが津田沼にいる世界で(前篇)
中村さんが津田沼にいる世界で(中篇)
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(撮影:東間 嶺)


  一駅目

 がついたときにはすでにうんこが出口まで来ている、ということが頻繁にあり、つまりそれがおれの体質なのだ。普通の人はもっと早く便意や尿意に気がついて、造作なく処理しているのだとしても。みんな、大抵のことはおれよりもうまくやるのだから。
 
 早稲田を二回受験したが、二回ともうんこを漏らした。
 
 衆人環境で脱糞したのは幼児期を除けば今のところは人生においてあの二回だけで、そのどちらもが早稲田受験の時だったのだから、きっと早稲田大学と前世などでなにかあったのかもしれない。
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中村さんが津田沼にいる世界で(前篇)

「あ、それはそうとぼくさえきさんの書いている小説、読みましたよ」
と中村さん。
「そりゃ、ありがとうございます。どうでした??」
やや自信なさげな声でわたしはたずねる。
「うん、面白いんじゃないですかね」
「そうですか?」
「面白いですよ」

中村さんは手元のiPhoneにメールが着信したのを横目にしながらハイボールを注文した。わたしはすこしぬるくなったビールを啜った。
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中村さんが新所沢を去り、津田沼に引越してから早一ヶ月が過ぎようとしていた。春独特の不安定な気候に左右されながらも、わたしは徐々に生きるエナジーとでも言うべきものを取り戻しつつあった。

が、しかし中村さんの不在はなかなか耐えがたく、彼の職場でもある新宿でいっしょに酒を飲むことにした。
 
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なにか小説を書きたいから小説を書こうと思う。

と、こう書き出した時点で、いわゆる知識人は、ああメタ小説かと思うであろうし、たいていの人はメタ小説、はてな、となるであろう。 

小説を書こう小説を書こうと思い立ってから、おおよそ十年が過ぎた。いや、正確には八年と十ヶ月。人間は、すぐに五年とか十年とか区切りをつけたがる。おそらく、人間の一生はあまりにも漠然としてつかみどころなく過ぎ去って、つまり死んでしまうので、ほとんど無理やりにでも区切りをつけ生を確かめようとするのだろう。なんて書くと、ちょっと小説らしい感じがする。というか自分がその気になる。こういう感じの描写を、要所要所に織り交ぜて、それっぽく書き進めていきたいと思う。 

ああそうだ。ちなみにぼくは、小説の勉強はけっこうした。谷崎潤一郎の、文章の指南書として名高い文章読本とかも読んだ。ほかにも、たくさん読んだ。それで、自分では勉強したと思っている。だからまあ、ぼくの文章力は、ふつうの人よりは高いと考えてもらってかまわない、というか、この小説の終わりまでにはそれを証明したい。というか、あなたがこれを、紙媒体にしろweb媒体にしろ、一般的な商業流通を経て読んでいるのであれば、きっと何しかしらの形で証明されたということなので(絶対に自費出版なんかしないから)、ぜひとも期待して読み進めていただきたい。 
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とうとう中村さんが仕事を終えて、新宿から新所沢に戻ってきた。わたしは彼を待っている間にどうしても一杯やりたくなってしまい、駅前の日高屋で餃子をつまみにビールを飲んでいた。我慢できなかったのだ。中村さんはわざわざ日高屋の前まで来てくれたので、わたしは急いで会計を済ませ、店を出て、歩きながら話した。
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 中村さんがやってくるまであと2時間半ある。ということはドトールに入ってすでに1時間半が経過したのだ。そのことを考えると、やはり入店時にケチらないでLサイズの飲み物を頼んでおいて良かった。これがSサイズというのは論外として、1時間半も滞在すればMサイズではドリンクを完全に飲みきってしまっていささか見栄が悪くなる。Lサイズだと完全に飲みきるのは難しいし、とても暑い夏の盛りでもなければ、長居するためにオーダーするのは明らかだった。ドトールのドリンク、とりわけLサイズの商品には実はそのような記号的役割があるのだ。 » すべて読む
 中村さんと酒を飲むまで、あと4時間はある。この時間をいったいどうやって潰そうかと考えた。しかし、あまり良い考えは浮かばなかった。しかたなくわたしは新所沢駅前のドトールに入ることにした。ドトールに入ってアイスコーヒーのLサイズを注文し、席に着いた。喫煙席はきちんと換気されており、混み具合も適当だった。わたしはかばんから谷川俊太郎の詩集を取り出して読み始めた。しかし、彼の詩はあまり心に響いてこなかった。仕方ないので、中村さんから借りているその詩集を閉じ、マルボロアイスブラスト8mgを一本箱から引き抜いて、安っぽいライターで火を着けた。いつもと代わり映えのしないマルボロの味。最近は一日に一箱、つまり20本を吸ってしまうのが常だった。 » すべて読む
中村さん、ぼく、新しい物語を書こうと思うんですよ。今までにないものを、今までにない文体でね、書こうと思うんですよ。でも今までにないものってどんなものだろうって思うんですよね。今までにないんだから、どんなものかって分からないじゃない?そこから始まるんですよ、すべてがね。うんざりする?そうかもしれませんね。
 

 
 
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「どうですか?」
「うーん、なんか頭の中がごそごそしますね。それに耳鳴りもする」
「久しぶりに自分の魂と一体化した感想を…!」
「いやぁ、なんというか、なんかもう何もかもめんどくさいです…」
「え?何かポジティブなバイブスは無いんですか?」
「んー、まったく無いですね。21000円は高かったなぁという印象。あと、鳥餅売り場のレジのお姉さんが可愛かったですね」
「………」
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