Sports&Critic

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闘争から逃走へ?「勝利-敗北」という構造へのオルタナティブ

今年4月にアート系タブロイド誌の『Va+』が刊行された。特集のテーマは「勝利と芸術生産」。勝利というある種の絶対性を帯びた価値概念と、価値観の多様性を謳うことの多い芸術のめずらしい取り合わせがまず興味を引く。特集の狙いに迫るため、少し長くなるが巻頭言を引用しよう。


「芸術生産を通して、私たちは「勝利」と、逆説としての「敗北」、そして「勝利-敗北」という構造そのものに対して、どのように向き合うことができるだろうか? 当然そこには、勝つか負けるかという二択ではなく、旧来の闘争や衝突から「逃げる」という選択肢もある。あるいは社会の中で身を翻し、現実に起こる日々の苦難に奔走されることなく、自分たちの生活における「よりよく生きる」ことを、「勝利-敗北」の構造そのものから遊離した姿として定義付けることができるかもしれない。では、その遊離した姿とは、一体何であろうか? ライフハック的な営為を経ることで、果たして「勝利-敗北」の構造から逃れることができるのだろうか? 既存の価値基準に自らを委ねることなく、オルタナティヴを探すことで、勝利の意味を実践として書き換えていく可能性はあるのだろうか?」

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 2016年4月27日、内山高志は自身の持つWBAスーパーフェザー級世界タイトルの12度目の防衛戦の挑戦者として暫定王者ヘスリール・コラレスを迎え、僅か2ラウンドでタイトルを失った。ファン・カルロス・サルガドからタイトルを奪ったのが2010年1月11日だから、六年以上の長きに渡って防衛したタイトルを僅か六分で失った事になる。
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 考えてみると、あれはもう15年近くも前の事になる。タイの首都バンコクにあるチュワタナジムの周辺をジムメイト達と走っていた早朝の事だ。ポツポツと落ちだした雨は十五分程経った頃には本降りといった様相で、その間にジムメイト達は、一人また一人とランニングコースを外れていく。けれども試合の近かった僕はどうしてもノルマをこなしたかった。

 一人きりでロードワークを続けていると、ジムまでの帰り道で足を止めて待ってくれているジムメイトが居る事に気付いた。彼は雨粒に顔をしかめながら、両手で肩を抱いて身をすくめる、恐らくは万国共通の、あの震えるようなジェスチャーをして僕を心配そうに見詰めていた。勿論――雨で体が冷えるぞ――の意味だが、彼の気遣いに感謝しながらも「大丈夫だ」と手で示して、「ありがとう」の意味で笑顔を返した。


  
※ ネットでヨドシンを観ることができる、西岡との一戦。この試合も痛烈なKO負けだった。 
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(※ Original Text Updated: May 05, 2015)

A long-awaited match is over. Floyd Mayweather Jr., an undefeated five-division world champion, and Manny Pacquiao, another world champion in six divisions (including some skipped grades over 20kg difference in weight), these most renowned world-class boxers fought, and it resulted in Mayweather's victory by a large majority (much larger than I've expected). At the end of the match, I simply understood that it showed the highest point of the modern boxing. While watching the fight, I saw Mayweather might have advantages if scored according to the current boxing rules; however, the judging actually did not matter. The only feeling I had was deep respect and appreciation for these two great athletes who fought a fierce battle for the 12 rounds.

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 『世紀の一戦』が終わった。5階級を制覇してなお無敗のフロイド・メイウェザーと、6階級(「飛び級」を含めて、20キロの体重差の中で!)で世界チャンピンとなったマニー・パッキャオという、ともに史上最高クラスのファイターが雌雄を決した大試合は、メイウェザーが(私が思ったよりは)かなりの差をつけてパッキャオに判定勝ちした。

 試合が終わった時、私は「やはり、現代ボクシングの到達点を見ることができた」と感じた。現在のボクシングのルールで採点するなら、「多少なりともメイウェザーに分がある」とも思ったが、正直、判定はどうでもよくなっていた。12ラウンドにわたって、非常に高密度の攻防を繰り広げた両雄に対して、尊敬と感謝の気持ちだけになっていた。

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ドレフュス事件をめぐって二分する世論を風刺した漫画( 出典:Wikipedia )


――われ弾劾す!

 これは19世紀末のフランスのある新聞に掲載された、作家のエミール・ゾラによる大統領宛ての公開質問状の見出しである。ゾラは、当時世間を騒がせた所謂ドレフュス事件において、証拠不十分のままスパイ容疑で逮捕されたユダヤ人のドレフュス大尉を弁護する為に、軍部を批判してこの質問状を作成した。この事件の背景には、西洋キリスト教社会に根深いユダヤ人差別がある。この事件についての世論は当時真っ二つに分かれたが、ドレフュスを罰するべしという意見の中には「ドレフュスが本当に犯人であるかどうかよりも、国家の威信を守る事が重要なのだ」というものまであったそうだ。

 さて、ではボクシングの話をしたい。昨年12月3日に行われたIBF王者亀田大毅とWBA王者リボリオ・ソリスのスーパーフライ級統一タイトルマッチをめぐる一連の騒動について、だ。ご存じ無い方の為に試合前日の計量から1月10日の倫理委員会までの経緯を説明しておくと、大体以下のようになる。

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 最終回となる今回は、今まで1~8で書いてきた事を総括し、その後書きたかったけれども書かなかった事を簡単に紹介したい。

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 日本ボクシング界について―私的論考②

 

今回は、業界とJBCの癒着・談合体質について、亀田興毅vsカルロス・ボウチャン(メキシコ)、そして女子アトム級タイトルマッチとして行われた小関桃vsウィンユー・パラドーンジム(タイ)の二試合を例にして取り上げたい。しかしその前に、前回取り扱った「ジム制度からのプロモーター権限の分離」という私の意見についてだが、これに関連して、以前に「ジムについて②」で書いた内容を以下でもう一度取り上げると共に一部訂正し、自分の意見を纏めたい。
 

 「プロモーターのライセンスを取得するには(原則的に)オーナー、プロモーター、マネージャーのライセンスを持つ者の中から二名以上の保証人が必要なようだが、これは恐らくそれ程難しい問題ではない。重要なのは、興業が儲からない事だろう

 

上記では、何の考えも無しに「それ程難しい問題ではない」と書いたが、新規参入や革新的にビジネスを興そうとする向きには問題となるのかもしれない。この保証人の問題に加え、(やはり既述ではあるが)東京とその近郊では1000万円、日本チャンピオン経験者だと500万円、東洋チャンプ400万円、世界チャンプ300万円という高額で不平等な日本プロボクシング協会への加盟料(プロのジムとして活動する費用)も、新規参入を目指す向きには非常に大きな問題となるだろう。この両者(保証人と加盟料)の問題は、業界の活性化の為には改められなければならない。元チャンピオンといった功労者には年金などで労うべきだろう。こういった参入障壁が取り除かれた上で専業のプロモーターが育てられ(協会がその音頭を取るべきだ)、ジム会長がプロモーターの権利を手放し易い状況を作りあげてから、「ジム制度からのプロモーター権限の分離」がなされなければならない。

以上を前回の内容に加える。

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日本ボクシング界について-私的論考 ①

 前回までは、私的な意見に走りがちな自分を縛めるために「私」といった一人称はなるべく禁じてきた。しかし、勿論そこには「私」の判断であり、考えであり、価値基準であり、といった諸々の要素が含まれている。だからこそ「公的」な議論を進める為に「私」の存在を隠したわけだ。これからは、これまで行ってきた議論を踏まえ、さらに展開させる為に「私」を登場させたい。やや具体的に述べると、これまで行ってきた「ジムについて」「移籍について」で行った議論に自分なりの意見として、解決策・改善策を提示したい。読んでくれる方が居るわけだから、これまで行ってきた議論を前提にして「私的」にやり直すより、その都度「私」を登場させて意見させた方が読み物としては余程親切だったろう。しかしそう思いながら、自分の意見の正当性を確かめる意味合いもあって、まず「公」的視点で議論を展開させて貰って、その後、「私」的意見に移るという構成にした(だからといって公的な価値観を無視して意見を述べるつもりはない)。ある議論においては既に述べたものであり、「くどい」と思われるかもしれない。しかしその点については、再確認の意味もあるし、初回に述べたように、未熟な書き手による書き物だから勘弁して貰えれば有り難い。以下、「日本ボクシング界について-私的論考」本編に移らせて頂きます。

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移籍について②

JBC(日本ボクシングコミッション)は、業界団体である日本プロボクシング協会の推戴によって生まれたプロボクシング競技を統轄する機関である。JBCはボクシングの競技としての公平性・安全性を確保する為に、試合の管理、ランキングの作成、選手やジムの管理・指導も行っており、その「総則」には、正直なボクシングビジネスの実現を目指すという内容が書かれている(正しい文言はJBCHPの記載内容を確認して欲しい)。

移籍したいボクサーは大勢居る。実際に移籍してジムを移ったボクサーもまた数多い。そしてそれがスムーズにいった例も、そうはいかなかった例もあるだろう。そういった例の中から、一般のファンの耳に届く移籍の話題はごく少数である。それを一般論として語るには問題があるかもしれない。しかし問題にされるべきは「いざ問題が起こった時にどうするべきか」という事ではないだろうか。以下に、実際に問題になった例を三つ紹介する。

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