ブータンについて

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ブンタンの町の郵便局

【ガイドたち、ツーリストたち】ブータンについて---18から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

ブータン人のふりをして

9時過ぎにホテルを出発。この日の目的地のプナカへ向かう前に、ブンタンの町の郵便局でポストカードを投函した。車に乗り込み出発しようとすると、一人の男性がネテンに話しかけてくる。ゾンカ語で話しているが、「プナカ」と言っているのは聞き取れた。ネテンとの短いやり取りのあと、どうしてなのかわからないが、男性は会話を英語に切り替えた。

「カネは払う」
「ゲストがいるから、ダメだよ」

ネテンも英語で返事した。男性が車の中をのぞき込む。私と目が合うと、何やら納得した様子だ。あきらめ顔で車から離れて行った。ネテンはギアを入れ、車は走り出した。
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ブンタンの町

【ブンタンへ】ブータンについて---17から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

ブータン人専用席

SUVに乗り込み、次の目的地のジャンベイ寺院へ向かう。ここは僧院だ。お堂の中から、大勢のお坊さんが読経する声が聞こえる。私が中に入ったのは、ちょうど読経が終わるあたりだった。時計を見ると12時だ。もうそんな時間かと思う。法要でもあったのか、のどかな広い境内で、お坊さんたちが地元の人々に食事を振舞っていた。見学が終わると私たちも車に乗り込み、ブンタンの町のレストランへ向かった。ランチ休憩だ。
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モンガー、早朝

【モンガーへ】ブータンについて---16から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)


東から中央へ

閑散としていても、モンガーのホテルはトラシガンで滞在したホテルより設備がよかった。見晴らしのよい角の部屋でよく眠ったが、夜明け前に目が覚める。

瞑想し、外が薄明るくなる頃、窓の外の景色を写真に撮った。

東ブータンでの滞在も終わりだ。ツーリストの存在感が薄い東ブータンを離れるのは名残惜しかった。今日はブンタンまで移動する。中央ブータンの中心地、地図で見てもブータンのほぼ中央だ。

今日の日程は移動時間が長い。早いうちに朝食をすませ、SUVに荷物を積み込む。車がきれいになっていた。昨夜、夕食のあとネテンが車を洗ったのだという。一緒に移動していると友だち気分になってしまうが、仕事の旅行はやはり大変だ。

モンガーを出て、しばらく穏やかな田園風景を眺めながら走ったが、道は徐々に標高を上げる。周りじゅう霧に包まれ、視界が開けない。ただ、道路の整備状況は東ブータンより若干いいような気がした。少なくとも、道路工事で通行止めになっている所はなかった。それでもシンゴルという場所に着き、昼食だよと言われたのは、昼もだいぶ過ぎた頃だった。
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モンガーの町

【トレッキングの終わり】ブータンについて---15から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)


 助手席でうたう歌

翌朝、ホテルの人たちに見送られて出発した。過ぎ去ったものに執着するのは意味がないと頭ではわかっていても、トレッキングの日々が懐かしかった。

ブータン滞在はまだ半分残っている。
この半分で、自分が経験できることは何なのか?

ブータンの旅行は移動時間が長い。移動距離は短くても、カーブの多い山道は工事をしている所や路面が整っていないところが多くて、時間がかかる。ネテンはいつも、MP3プレイヤーをカーステレオにつないで音楽を聴いていた。ブータンで流行っている歌なのだろうか、やさしい男性のヴォーカルと過剰に女性的な女性ヴォーカルのデュオで、シンプルなアレンジだ。初めて聞いた時は、ブータンの人はこんなに甘ったるいものを聞いているのかと辟易してしまった。でも不思議なもので、いつも聞いていると好きになる。
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馬と一緒にフォメイへ向かう女の子

【ジョンカーテン】ブータンについて---14から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

村人の通る道

朝、目を覚ました。ということは、ちゃんと眠ったのだ。
私の身体はようやくブータンで眠ることを覚えたのだろうか。

キャンプ地のジョンカーテンからトレッキング終点のフォメイまでは遠くない。リラックスしたような、気が抜けたような気分で出発した。キャンプサイトからしばらく歩くと小さな集落があった。ジョンカーテンの村だ。昨夜キャンプサイトを訪ねてきたノルブは、今ごろ学校で授業中だろうか。

村を過ぎ、トレイルは深い木立の中を通って行く。馬を連れた若い女性がいた。馬に積んだ荷物がずれてしまい、うまく直せないのだという。シリンとジャムソーが手伝って、荷物を直した。シリンはジョンカーテンの出身だ。この女の子は、ノルブの姉なのだという。そういわれれば、優しそうな顔立ちがノルブと似ていた。

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サクテンを出発。快晴。

【サクテンの村】ブータンについて---13から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

広葉樹林を下る道

翌朝は晴れて、青い空が広がった。

おとといサクテンに到着してから初めて見る青空。ここにも晴れの日があるのか、と思った。二人のホースマンが5頭の馬を連れてきた。この日の歩行距離は17キロ。距離は長いけど、ずっと緩い下りだ。帰ってしまったリンチェンの代わりに、シリンというホースマンが弁当を運ぶ係になり、一緒に歩いてくれた。

サクテンを発つ時に思った。ここに来ることができてよかった。

来ようと思えば、また来ることができるのかもしれない。でも、仮に5年後にここを訪れたら?自動車道が開通し、村の様子はすっかり変わっているだろう。一期一会の出会いは終わった。私は思い出を心にしまいこみ、そこからさまざまな意味や印象を紡ぎだしていくことになるだろう。

トレイルは小さな峠を越え、広葉樹林の中を下り始めた。広葉樹は人の生活やぬくもりを連想させる。そういう世界に、少しずつ戻って行くような気がした。私はやさしい森よりも、視界の開けた場所の方が好きだ。心のどこかで、人間の暮らしを嫌っているのだろうか。
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【二度と会わない人たち】ブータンについて---12より続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

馬のいない朝

情緒的な問題なのか疲労のせいなのか、お腹が痛くなってきた。人を呼ぶほどではないが苦しい。部屋にトイレがついているのがありがたかった。

腹痛が和らいでうとうとし始めると、また痛くなってくる。

無理しないほうがいいと思い、持参していた常備薬を飲んだ。食あたりではない疲労やストレスが原因の腹痛は、薬を飲めば治ってしまうことも多い。外がうす明るくなるころには、お腹の痛いのも治まってきた。

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【ミクサテンからサクテンへ】ブータンについて---11から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

意外な知らせ

すっかり暗くなる頃、ジャムソーから意外なことを聞かされた。

「ロブザンとリンチェンは明日の朝2時にここを出発して、チャリングに帰るんだ」

一瞬、どういうことなのか理解できなかった。
彼らがここを出発する。行き先はチャリング。トレッキングの出発地点だ。出発時間は…

「朝の2時?朝の?今晩深夜という意味?」
「そうそう」
「どうして?」
「馬は、それぞれ決められた区間の中で使う規則があるんだ。サクテンから先は区間が違ってて、同じ馬は使えない。ここからフォメイまでは、別の馬が来るよ」

きっと昔の日本の伝馬制のような仕組みになっているのだろう。考えてみれば、トレッキング最終地点のフォメイまで同じ馬を使った場合、トレッキング解散後の帰路は、馬たちにとってすごく不経済なことになる。

最終日まで一緒に過ごすものと思っていた人たちの突然の出発、夜中の2時というあり得ない出発時間、そしてチャリングまでの困難な道のりを考えると、そんなことやめてくれと言いそうになる。

こういうことで動揺するのは、自分の心の弱さなのだろうか。
私は、平静を装った。

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5-07 (1 - 6) (本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

ミクサテンのキャンプサイト

黄色いテントの中には、すでに私のダッフルバッグが置かれていた。いつものように、ギレがテーブルを出して、お茶の用意をしてくれた。霧雨のさみしいお天気で、まだ4時くらいなのにとても寒い。峠から1000メートル下ったとはいえ、ミクサテンの標高は3000メートルはある。こんなお天気で、寒くないわけがない。

ロブザンとドルジの父親が、裏手にある山の斜面を上っていく。何をするんだろうと思って見ていたら、いつも腰に下げている鉈でぱしぱしと木の枝を落とし、あっという間に抱えるほどのそだを集めてきた。桃太郎の話に出てくる、「おじいさんは山で柴刈り」というのはこういうことなのかもしれない。
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(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)

村人の帽子

夜よく眠れないのは相変わらずだった。

これはどうにも解決しようがないが、もうそろそろきちんと眠らないと体力が続かないかもしれない。

翌朝起きたとき、そんなことを考えた。

ちゃんと眠っていた訳じゃないから、起きるのは簡単だ。着替えて洗面して、いつものように瞑想した。困るほどではないが、少しだけ頭が痛い。歩けないことはないだろうけど苦しい一日になるかもしれない。今日の歩行距離は14キロ、そんなに長くない。でも上り600メートル、下り1000メートルの標高差がある。今日はちょっときついかも、とジャムソーも言っていた。

ギレがストーブの前にテーブルを出し、お茶の支度をしてくれた。ドルジが用意してくれたオムレツ、シリアル、トーストで朝食にする。テントの撤収がないので、朝のパッキングはそんなに手間がかからない。ゲストハウスの前庭でみんなが馬の背に荷物を取り付けるのを眺めていた。

ジャムソーが帽子をかぶっていた。この地方の村の人、特にサクテンの人が使う、ヤクの毛でできた黒いフェルト帽だ。帽子の縁から触手のような毛束が5本生えている。

「どうしたの、それ」
「リンチェンから借りた。かぶってみる?」
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