【連載小説】各駅電車のステージ

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(撮影、編集:東間 嶺、以下全て同じ)

【承前】各駅電車のステージ(第2回)

 子高生の体が、電車の揺れによって傾き、体にぶつかった。彼女の髪の匂いなどを嗅ごうと、息を吸い込んだ。彼女の右手の指は、携帯、ではなくスマフォの液晶上をせわしなくも優雅に飛び回っている。

 かちかち、かちかちかちかちかち(実際こんな音はしないが、おれの耳は『ケータイ』から脱却していない)。

 T高校の制服を着ているこの娘は、おれの降りる駅の一つ前の駅で降りていく筈だ。誰にどんな内容のメールをしているのだろう。あんなに一生懸命にメールするような友達がおれにはいない。肩越しに画面を覗いてみようとしたが、角度が悪く反射して見えない。

 この娘は紺のソックスを履いている。それは今知った情報ではなく、さっき見て気付いた事だ。スカートの影に覆われた白いふくらはぎにぴったりと張り付いたソックスの様子は可愛らしく、学校が終わって家に帰り、それを脱いだ脚にはうす赤くゴムの凹凸が肌に残っているだろう。ベッドに腰掛けて彼女は一人、なんとなくその跡を自分で撫でてみたりするかもしれない。指先が凹と凸を交互に、順々に上がったり下がったりを繰りかえしながら、肌の上を滑っていく。

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(撮影、編集:東間 嶺、以下全て同じ)

 大便を漏らしてから、そのままトイレの中で呆然としていた。
 すると、個室の一つが開いた。出てきた人と目を合わさずに個室に入った。

 ジーンズを、うんこがこれ以上付かないように、足と生地の間に隙間を作りながらゆっくりと脱いだ。右足を抜く時バランスを崩して、ドアに体を当てた。鍵の金具が腰に当たり、思わず「うっ」と声が出た。脱いだジーンズをフックにかけて、それからトランクスを脱ぎ、うんこが指に付かないようにつまんでそれをゴミ箱に投げ入れた。靴下を除いて下半身が全裸になったおれは尻を拭き、足を拭いた。トイレを流した際に貯水タンクへ注がれる水で、トイレットペーパーを湿らし、丹念に拭いた。
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(撮影:東間 嶺)


  一駅目

 がついたときにはすでにうんこが出口まで来ている、ということが頻繁にあり、つまりそれがおれの体質なのだ。普通の人はもっと早く便意や尿意に気がついて、造作なく処理しているのだとしても。みんな、大抵のことはおれよりもうまくやるのだから。
 
 早稲田を二回受験したが、二回ともうんこを漏らした。
 
 衆人環境で脱糞したのは幼児期を除けば今のところは人生においてあの二回だけで、そのどちらもが早稲田受験の時だったのだから、きっと早稲田大学と前世などでなにかあったのかもしれない。
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