MOVIE&レビュー


 

 無沙汰してます。前回の更新から随分と間が空いてしまいました。

 さて、今回は以前ご紹介した『フルートベール駅で』の制作者だったフォレスト・ウィテカー繋がりという事で、『大統領の執事の涙』を紹介します(この作品で、ウィテカーは主演を務めています)。タイトルに「涙」と入ってますが、安っぽいメロドラマではありません。

 監督はリー・ダニエルズ。共演で印象的なのは、ウィテカー演じるセシル・ゲインズの妻役で、高名なトークショーの司会者でもあるオプラ・ウィンフリーです。「アメリカで最も影響力のある女性の一人」と言われる彼女ですが、演技も達者だったんですね。この『大統領の執事の涙』でも良い仕事をしています。他には、一昨年の夏に自殺してしまったロビン・ウィリアムズがアイゼンハワー大統領役で出演しています。

 内容をザクッと説明すると、「七人のアメリカ大統領に仕えたホワイトハウスの執事が黒人大統領の誕生を目にして涙するまでの物語」です。
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#43 -Cleaning(family grave)- Futaba,Fukushima
May. 14-15. 2014 
"Cleaning(family grave)" Futaba,Fukushima(撮影:東間 嶺以下全て同じ)

んたってあいつら二万円余計に貰ってるんだからな。12万だ。直前まで昂った調子で怒りを訴え続けていた初老の男がふいに表情を緩め、嘲るようにそう言うと、集会所にすし詰めで座って男と同じように怒ったり憤ったりしていた人々のあいだに、どっと、同調するような笑い声が広がった。人々と対峙して訴えを聞いていたスーツ姿の男たち数人は笑わなかったが、と言って諌めたりたしなめたりすることもせず、淡々と受け答えを続けていた。スクリーン上に展開されたその光景は、上映された全体の記録の中ではごく僅かな、殆ど一瞬の時間の出来事でしかなかったにも関わらず、わたしは、なんだか凄まじいもの、酷くむごたらしいものを観てしまったかのような、正視できないほどのいたたまれなさを覚えた。〔二万円〕、というむき出しの言葉と、それに呼応する笑い声が耳にへばりついて離れなかった。
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 今回紹介する『フルートベール駅で』も、前回取り上げた『それでも夜は明ける』と同様、実話が基になっています。この映画の事を知ったのは、資料として参照したWikipediaに、サミュエル・L・ジャクソンによる以下の発言が紹介されていたからです。


 
「『それでも夜は明ける』こそ、アメリカの映画界が人種差別に真摯に向き合おうとしていないことを証明している。もし、アフリカ系アメリカ人の監督が本作を監督したいといっても、アメリカの負の歴史を描くことにスタジオが難色を示すであろう~(中略)~過去の奴隷の解放を描いた本作よりも、現代における理不尽な黒人殺害事件を描いた『フルートベール駅で』を作ることの方が勇気のいることだ」

――Wikipedia「それでも夜は明ける」より、【著名人の反応】から抜粋。
 

 
 この映画は、2009年1月1日に起こった黒人青年射殺事件(参照:AFPニュース)が題材になっています。事件後には全米規模で抗議集会が開かれ、一部では暴動になるなど大きな騒動に発展しました。

 作品の構成は至ってシンプルです。まず、主人公のオスカー・グラント(マイケル・B・ジョーダン)が射殺されるという事件のクライマックスが冒頭に置かれています。そして、その日の朝まで一気に時間を遡り、そこから《その時》までを時系列順に追っていきます。単純といえば単純ですが、冒頭のシーンがあまりにも衝撃的な為、観客はのっけから映画の世界に引き込まれてしまうでしょう。

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 日本では2014年、アメリカでは2013年に公開された英米合作映画です。監督は気鋭のスティーブ・マックイーンで、主人公をキウェテル・イジョフォーが演じました。アカデミー作品賞と、助演女優賞(ルピタ・ニョンゴ)で二冠を獲得、ゴールデングローブ賞など他にも受賞多数で、映画好きなら見ていなくても気になっていた人は多いのではないでしょうか。 » すべて読む

(↑日本用予告は内容が違いすぎるので原語版を。吹き替えで特徴的だったのは「沢城みゆき」が無駄に活躍するということ。「沢城みゆき」ファンも必見だ)。
 
 映画『LEGO(R)ムービー』(2D吹き替え)を観た。素晴らしすぎる。上映中、ずっと号泣していた。この手の話の最高峰は、無論、みんな大好き『トイストーリー』シリーズとなるだろうし、私自身も好きな映画であることには変わりないのだが、今回の『LEGO』は玩具映画チャンピオンだった『トイストーリー』を超えたかもしれない。神的なまでに凄まじい。そのくせ、ストーリーは単純だ。LEGOワールドを思うがままに支配しようと企む「おしごと大王」の野望を阻止するため、「選ばれし者」に間違われた一作業員の「エメット」が、世界を救う「幻のパーツ」をめぐって奮起奮闘する。その冒険を通じて、遊びにおいて「マニュアル」とは何か? 人はどうやって「選ばれる」のか? といった、意義深いテーマが展開されている。「マニュアル」への叛逆記という意味で、私にとっては西尾維新『少女不十分』の後継として位置づけられる一作だといえる。

 さて、ネタバレしよう。

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 最近『大統領の執事の涙』と、『それでも夜は明ける』を立て続けに見ました。両者とも凄く良い映画で色々と考えさせられたんですが、そこでふと「そういえば、去年一番良いと思ったのは『ジャンゴ』だったな」と思いだしたんです。前の二つは黒人差別(奴隷問題)が主題の実話を基にした映画ですし、タランティーノの最高傑作『ジャンゴ』は血が乱れ飛ぶ西部劇ですが、やはり黒人差別は明確なテーマとして物語の背景になっています。更に言えば、好きな映画を聞かれたとき答えるお気に入りの一つにエドワード・ズウィックの『グローリー』があります。これは南北戦争で奴隷解放を求めた北軍の黒人部隊のお話です。デンゼル・ワシントンがスターダムにのし上がった映画で、これも非常に感動的で素晴らしい作品です。


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「たましいの自然な動きはすべて、物質における重力の法則と類似の法則に支配されている。恩寵だけが、そこから除外される」(シモーヌ・ヴェイユ『重力と恩寵』)
 
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◆ 確か朝日新聞だったと思うが、田原総一朗の、新聞掲載の推薦文としてはやや長い賞賛コメントに興味を惹かれて、9月の末に新宿ピカデリーまで出かけた。事前の情報は殆ど得ていなかったので、背中を押したのはかれだ、ということになる。

◆ でも、実はそれほど期待していたわけではなくて、なぜかと言えば、まずタイトルが失敗したクライム・ノヴェルの邦題みたいで、あまりにもちょっとどうなんだそれはという感じだったし、「新潮45」の取材記事から書かれた原作にしても、大スクープは大スクープなのだとしても、こう書いては何だが事件自体は「平凡」なものだ。いかにもな行為で死刑囚となったヤクザが、似たような手口で「実はまだ何人か殺して」いて、「首謀者は捕まっていない」とか言いだしても、正直なところ「あっそう」という感じも拭えず、従ってクライム・ムービーとしてもミステリとしてもネタとしての新味は乏しく、もしかするとこれは、朝ナマの進行さえ覚束なくなった耄碌老人の過大評価、ありがちな評判倒れかとも思っていたのだった。

◆ しかし、映画は違った。平凡、などとはおよそかけ離れたものだった。ぼくの想像よりずっと、遥か上に振り切っていて、たぶん、傑作、といってしまってかまわない部類のものだと思った。少なくとも、リリー・フランキーやピエール瀧が支配する時間は。

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転載元:大村益三〈B術の生態系〉Bな人のBな術(2013年8月30日更新)
 

ネットで "Pacific Rim"(movie)を調べた。カタカナの「パシフィック・リム」ではなく英語のそれだ。"Cool Japan" が本当であれば、英語圏のサイトには "cool" の言葉が乱れ飛んでいても良い筈だが、実際には "silly" "stupid" "ridiculous" "unwise" "childish" 等といった悪罵も多く見掛けた。

同映画にも登場する「有人巨大人型兵器」は、「マジンガーZ」以来の日本特有の「妄想の様式」である。従って英語を話す人達は、その様な「異文化」の「妄想の様式」に対して、彼等の現実的なものに対する単語である "robot" とは呼ばず、"mecha(mech)"=「メカ」というエキゾチックな「日本語」を当てたりもする。
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転載元:大村益三 〈B術の生態系〉Bな人のBな術(2013年8月30日更新)
 


承前

プラモデル雑誌「月刊 Model Graphix」2009年4月号から2010年1月号に掲載(2009年10月号休載)された「原作」の漫画のタイトルに「妄想カムバック」とある様に、劇場アニメ化された「風立ちぬ」もまた紛れも無く「妄想」であり、従って広く共有される事を始めから放棄している。劇場では「映画をご覧になったあとにお読みください」と書かれた二つ折りのカードが渡される。それを開くと鈴木敏夫プロデューサーの自筆メッセージと、QRコード、検索ワード、URLが載っている。そのメッセージは観客に対する「試験問題」になっている。

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