「ミンガス」
「ええ、ミンガスです」Sさんが言う。
「たしか苦手じゃなかったでしたっけ?」
「以前はそうでした。でも、最近は悪くないなと思いはじめて。この曲も実にいい」
僕とSさんは、ふたりともジン・トニックを飲んでいる。
未だにバーに入ると一杯目はジン・トニック率がどうしても高い。
未だにバーに入ると一杯目はジン・トニック率がどうしても高い。
なんか学生の頃から全然成長していないみたいだ。
Sさんもそうなのだろうか。
そんなことをためしに尋ねてみると、「そうですかね」とSさんはやたら泰然としている。
そんなことをためしに尋ねてみると、「そうですかね」とSさんはやたら泰然としている。
Swingは大きな店ではない。カウンターが6席、テーブルが3席。
店の3分の1は客席と地続きのライブステージのようなスペースになっていて、そこにはドラムセットやピアノが置いてある。壁にはコルトレーンとマクリーンの写真が貼ってある。
今日のように客席が空いているとリクエストもし放題で気楽だ。
「ミンガスは『直立猿人』がイマイチ好きになれないんですよ。最初にそれを聴いたのが悪かったのかもしれない」とSさん。
「最近はそうでもないけれど『直立猿人』は代表作にしょっちゅうあげられてて…どうしてなんだろう。インパルス時代の音源のほうがずっといいですよね」
「なんというか『直立猿人』は録音が悪くないですか? 当時リアルタイムで聴いていたらすごいのかもしれないけど」
「そうですね。まぁジャズにせよポップスにせよ昔のレコードにそういうのはよくあるけど。ストゥージーズとかもそんな感じがしたなぁ」
「ストゥージーズ??」
「ああ。イギー・ポップです」
「イギー・ポップか」
「録音がよくないから、当時これが熱狂的なロックンロールだったのかどうなのかよくわからない。映像とか見るとまぁそうだったのかなと思うんだけど」
「そういえばストーンズのライブとかも前に聴いたらペナペナした感じだった…」
「『Get Yer Ya's Ya's Out』ですか?」
「ああ、それかな。知人が好きなんで、よく彼の家に行くと聴かされるんです。でも、いい演奏でしたよ。そういうのはむしろ結構好きで、それよりもアグレッシブな音楽が苦手で・・・強い音圧がかかってくるものとか単純なビートとかがダメなんです…だから今のロックとかって好んで聴かないですね。単細胞という気がして。ミンガスの音楽にもそういうロック的な苦手意識が働いていたのかもしれない」
「たしかにミンガスのバンドのダイナミズムはビッグバンドというかロック的なところもあるかもしれないですね」
「そうかも」 Sさんは腕時計を見る。 「しかし、Nさん、ちょっと遅れてるっぽいですね」
「Nさん?」
「ええ」
「ネ申パワーが昇天してうんちゃらの人ですか?」
「ああ、その人です。春の陽気にやられた気配のある」
「来るんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言いましたっけ?」
「ははは、じゃあ、忘れてたかな。いや、前の店にいたときにメールが来たんですよ。私がTwitterで実家に帰ってるって書いてたし、さっきの店にいるときもフェイスブックでチェックインしてたから」
「このへんに住んでるんですか?」
「そうなんですよ。偶然、彼もこのあたりに住んでいるんです」
(次回「S氏とN氏」に続く)
店の3分の1は客席と地続きのライブステージのようなスペースになっていて、そこにはドラムセットやピアノが置いてある。壁にはコルトレーンとマクリーンの写真が貼ってある。
今日のように客席が空いているとリクエストもし放題で気楽だ。
「ミンガスは『直立猿人』がイマイチ好きになれないんですよ。最初にそれを聴いたのが悪かったのかもしれない」とSさん。
「最近はそうでもないけれど『直立猿人』は代表作にしょっちゅうあげられてて…どうしてなんだろう。インパルス時代の音源のほうがずっといいですよね」
「なんというか『直立猿人』は録音が悪くないですか? 当時リアルタイムで聴いていたらすごいのかもしれないけど」
「そうですね。まぁジャズにせよポップスにせよ昔のレコードにそういうのはよくあるけど。ストゥージーズとかもそんな感じがしたなぁ」
「ストゥージーズ??」
「ああ。イギー・ポップです」
「イギー・ポップか」
「録音がよくないから、当時これが熱狂的なロックンロールだったのかどうなのかよくわからない。映像とか見るとまぁそうだったのかなと思うんだけど」
「そういえばストーンズのライブとかも前に聴いたらペナペナした感じだった…」
「『Get Yer Ya's Ya's Out』ですか?」
「ああ、それかな。知人が好きなんで、よく彼の家に行くと聴かされるんです。でも、いい演奏でしたよ。そういうのはむしろ結構好きで、それよりもアグレッシブな音楽が苦手で・・・強い音圧がかかってくるものとか単純なビートとかがダメなんです…だから今のロックとかって好んで聴かないですね。単細胞という気がして。ミンガスの音楽にもそういうロック的な苦手意識が働いていたのかもしれない」
「たしかにミンガスのバンドのダイナミズムはビッグバンドというかロック的なところもあるかもしれないですね」
「そうかも」 Sさんは腕時計を見る。 「しかし、Nさん、ちょっと遅れてるっぽいですね」
「Nさん?」
「ええ」
「ネ申パワーが昇天してうんちゃらの人ですか?」
「ああ、その人です。春の陽気にやられた気配のある」
「来るんですか?」
「あれ、言ってなかったっけ?」
「言いましたっけ?」
「ははは、じゃあ、忘れてたかな。いや、前の店にいたときにメールが来たんですよ。私がTwitterで実家に帰ってるって書いてたし、さっきの店にいるときもフェイスブックでチェックインしてたから」
「このへんに住んでるんですか?」
「そうなんですよ。偶然、彼もこのあたりに住んでいるんです」
(次回「S氏とN氏」に続く)