序章 離れた音楽(聴取に関する熟考における)

木が木を打ち鳴らす恐ろしい残響に突然驚かされ、夢を見ない深い眠りから目覚めた。その音はわたしの意識の中でのみ生じた音響的なできごとだったのか?―物語も持続的な時間も無い一瞬の夢―それとも物理世界におけるリアルな音だったのか?その音は寝室から生じるサウンドとしては長すぎた。これは家のどこか別の場所から、エコーの響く場所、ミステリアスで離れた場所から、音がやってきたことを示唆している。あの音が、家の寝室以外からやってきた音だとすれば、わたしは侵入者の存在を、可能性としてではなく、確信する。そのサウンドはたった今から生じたもので、今に属している。つまりわたしの記述以外のどこから生まれたものでもない。


言葉は飛んでいってしまう。いっぽう、書かれた文字は残る。音は、わたしたちの視界からも、伸ばした手の先からも、消えていってしまい、人々を魅了する。何がサウンドを作り出すのか?誰がそこにいるのか?サウンドは空っぽであり、恐怖であり、驚きである。音を聴くことは、死者に向き合って、シャーマンが歴史とお告げを取り扱うようなものである。確かな来歴を書くことはできないが、リスナーはタイムスリップに同意するのである。

【著者紹介】デイヴィッド・トゥープ(David Toop)。

1949年生まれ。ロンドン在住。音楽家、作家、サウンドキュレーター。
代表作に、『Rap Attack』『Exotica』『Haunted Weather』(いずれも未邦訳)。
邦訳に『音の海―エーテルトーク、アンビエント・サウンド、イマジナリー・ワールド』(佐々木直子訳、水声社)

【作品紹介】『不気味な残響』(SINISTER RESONAUNCE, The Mediumship of the Listener, 2010)

本ポストでは原書のVIIIページの導入部を訳した。

↓原書はこちらから。
Sinister Resonance: The Mediumship of the Listener