中継:新宿文藝シンジケート第85回読書会【リュディガー・ザフランスキー『人間はどこまでグローバル化に耐えられるか』 (叢書・ウニベルシタス)を読む。 】 https://t.co/OdpziYkwtW
— 東間 嶺(4/1発売『セイギのセイギのセイギのあなたは』---ウィッチンケア vol.9収録 (@Hainu_Vele) 2018年3月24日
【SBS】新宿文藝シンジケート読書会、第85回概要
1.日時:2018年03月24日(土)18時〜20時2.場所: マイスペース新宿区役所横店8号室3.テーマ:リュディガー・ザフランスキー『人間はどこまでグローバル化に耐えられるか』 (叢書・ウニベルシタス)を読む。4.レジュメ作成:さえきかずひこ(@UtuboKazu)
5.備考:FBイベントページ
■ 上掲の通り、3月24日に行われた第85回新宿文藝シンジケート読書会はつつがなく終了しました。同月に取り上げられたのはリュディガー・ザフランスキー『人間はどこまでグローバル化に耐えられるか』 (叢書・ウニベルシタス)でした。参考までに以下、当日配布されたレジュメを掲載します(当日の雰囲気は、冒頭のPeriscope中継約30分でご確認下さい。さえきがレジュメをもとに解説しています)。
新宿文藝シンジケート 第85回読書会レジュメ
(作成者:さえきかずひこ)
(作成者:さえきかずひこ)
結論:全地球レベルでの(インター)ネット化=グローバル化のヒステリーから距離をとり、バランス感覚と行動力を養うため、"空き地"=自己の解放区=自由な空間=個性を、読者各自が作れと促す教養(※1)主義的な啓蒙書で、哲学史に造詣の深い著者により様々な古典が多く引用される。本文わずか127ページと短く、2003年に日独ほぼ同時に刊行(※2)されたが、2018年現在においてグローバリズムを再考するために読む価値がある!読んで議論し、思慮(※3)を深めさらなる価値を共に作りましょう!!
本書構成および要約
本書構成:本書は第1章~第3章において、グローバル化/グローバリズムの定義と概要が解説され、第4章~5章において、グローバリズムと世界平和の関係が考察され、第6~10章において、今までの個人とグローバリズムの関係が詳述され、今後の個人のグローバリズムへの対処法がやや抽象的に示唆されて結ばれる。なお、第9章においては、自己の解放に関連して社会主義の失敗について触れられている。
第1章:第一の自然と第二の自然
第二の自然=文化=「それは負担の軽減、不安の軽減、危険の回避を意味する。技術でもってわれわれは人工補装具、鎧、甲羅、防空壕を作る」(p.10) 。グローバル化は19世紀中葉に始まったことを、マルクス・エンゲルス『共産党宣言』(1848年)とシュティフター『晩夏』(1857年)の引用によって例示する。
第2章:グローバル化
「グローバル化は地球に関する劣悪な情報の総体であるだけではない。好ましいグローバルな協同社会も存在する」とし「自然科学、医学、技術が生の負担を軽減し、生の危険を防」いでいる。また「UNO(※4)やそれを補完する、ないしはそれと競合する国家間や超国家的機関や協定の緊密なネットワークがあり、暴力や戦争を封じ込めようとしている」(p.20)。
第3章:グローバリズム
「グローバル化は統一的なプロセスではなく、多様なもの」「それに、資本と技術のダイナミズムを規制し、変革しようとする代案的(つまり反)グローバル化の動きもある」(p.21)
規範的なグローバリズムには三つの変種が認められる。
①ネオ・リベラリズム「ネオ・リベラルなグローバリズムは」「経済の優位性を押し通すのがその目的なのであって、国家も文化も経済に仕えねばならないのである」(p.24)
②アンチ・ナショナリズム「二度とナショナリズムはごめんだというもの」「上も下も情報技術、交通技術に支えられて、トランス・ナショナルな結びつきの中で、ナショナルな保育器から、そしてそうした関連の興奮状態から開放されるべきだとする」(p.26)
③グローバルな環境問題「われわれの地球はグローバルなビオトープ(安定した生活環境を持つ動植物の生息空間)であり、われわれの存在の住処なのだが、われわれの社会的責任を自覚しないかぎり、われわれの技術的文化の傲慢さによって破滅の危機が差し迫っている」(p.28)。
第4章:敵対関係の歴史
「スーパー・ヴィジョンの中にのみ行動能力のある単数としての「人類」があるのだが、実際にあるのは複数の人間だけである。人間の群れから「人類」という行動主体を作り出しうるなどと想定するのはあらゆる歴史的経験に矛盾する。人類のための行動だとうそぶく権力の背後には、この行動で他の権力との競合で優位に立とうとする一部だけの権力がつねに潜んでいる」(p.50)と指摘する。
第5章:世界平和とは?
「同質の平和な政治的宇宙は存在しないだろうというのが、カントの考察の結論である。政治的にはこの世界は複数の集合体のままである。基本的な敵対関係(「自然状態」)は国家間では結局克服されえず、どうにか制御できるだけである」「人間の諸問題においては安全確実なものはない。世界国家の幻想はこの点で思い違いをしていて、変わりやすい歴史の彼方を夢見ているのである」(p.57)とする。
第6章:グローバルなものともう一つ別の全体
「世界は、個人が明晰であるか愚鈍であるかに従って、意味深いものか不毛なものである。それゆえグローバル化を具体化するのは、それについてもう一つ別の大きな課題がゆるがせにされないときにのみ克服されうる課題であり続ける。もう一つ別の大きな課題とは、個人(※5)を、自己自身を、作り上げることである。というのも、個人もまた天と地が触れ合う一つの全体だからである」(p.80)。
第7章:個人とその免疫システム
「われわれの感覚には届く範囲があり、個人が責任を負うことのできる行動にも限度がある。感覚圏、行動圏と言われるものである」「刺激は何らかの仕方で逸らさねばならない」「われわれは自ら適当に反応することができない刺激、あるいは反応する必要のない刺激を取り除く濾過器のシステムを発展させねばならない。われわれの感覚はおそらくあまりに開かれすぎているからである。これに関する我々の免疫システムは十分なものではない」(p.84)。
第8章:密林と伐採した空き地
「ソローは森に逃げても、自分の気持ちの混乱から解放されないことを学ぶ。彼は森の中の伐採された空き地の前提を自分自身の中に発見することがなければ、この空き地を見つけ出すことはないのだろう。彼は自分自身の空き地を作り出さねばならないことになる―都市の藪の中にも」(p.105)。都市という第二の(人工的な)自然の中に、空き地を切り開かねばならない。
第9章:空き地の鬼火
自分自身の中の空き地=(自己の)解放。「マルクスはあちらの外に―歴史の中、社会的プロセスの中に―解放の必然性を発見する。それゆえ例の空き地は、自己経験の内面性の中にはなく、歴史のトンネルの先にあるあの光である。しかし」「歴史のトンネルの先にある光は鬼火であることが実証された。現実に存在する社会主義は大いなる解放ではなく、灰色の残忍な民族牢獄であった」(p.115)
第10章:場所を作り出す
「人は」「迷っているのである」。そこで「現在迷っている場所に座り込んで、根源にも目標にも頓着せず、空き地を切り開」(p.117)け。「空き地を切り開くことはさらに、グローバリズムのヒステリーに迎合しない行動様式、思考様式を養うことも意味する。減速すること、強情を張ること、場所感覚を磨くこと、いつでもスイッチを切断できること、実現を目指さぬことなどがこれである」(p.119)。「自分の頑なな意志を貫」(p.125)け。「生の歴史が世界史に挿入されているのだと言える。そこに含まれているのである。しかしここでは逆の関係もあって、生の歴史に挿入されている世界史が、二つのダッシュに挟まれて、この真似のできない「その間」に緩く結び付けられている。そこで私が願うのは、人がグローバル化とも距離を取って、二つのダッシュに挟まれて、「その間」によって自分の生と緩く結びつけられることである」(p.127)
注釈
1:人が、世界をとらえ、しかもその世界が独自の原則にのっとって動いていることを、深く認めながら、それを理解し、世界とのおりあいをつけてゆくこと。他者が、自分とは、まったく異なる志向をもった人間であることを了解しながら、ともに関係を保持し、新たに作り上げてゆくこと。そうした一連の営みを通じて、自分自身が変わってゆくこと。知識や情報としての「教養」をこえた、「教養」の極限と言うべき、こうした心の習慣が、「教養」の営みの基盤になる。(苅部直『移りゆく「教養」』p.198、2007年、NTT出版)
2:本書の訳者あとがき(p.133)を参照。
3:実践的な知恵としての思慮は、人間事に、しかも思案したり選択したりすることが可能な事柄に関わっている。(略)思慮の特性には、それが普遍的な知だけにとどまっていてはならず、個別的な事柄をも知らなければならないということも結びつけられている。(山口義久『アリストテレス入門』p.186、2001年、ちくま新書)
4:文脈から国際連合の英語における旧称United Nations Organizationの略称と思われる。
5:17世紀半ばに経験と教育によって形作られる人=個人(individual)の概念が生まれたが、それに対して作家の平野啓一郎は”分人”(dividual)という概念を提唱している。詳しくは平野啓一郎『私とは何か―「個人」から「分人」へ』(2012年、講談社現代新)を参照。論点
- グローバリズム/グローバル化に賛成しますか、反対しますか、あるいはそういう問題ではないと思いますか。それはなぜですか。
- 身近に感じるグローバリズム/グローバル化はありますか。それは具体的にどんなものですか。またそれについてどう思ったり感じたり考えたりしていますか。
- グローバリズム/グローバル化と世界平和は関係があると思いますか。関係があると思う場合、それはなぜですか。
- グローバリズムを克服する上で、自己自身を作り上げることが有効だと思いますか。有効だと思う場合、それはなぜですか。
- グローバル化によって世界は様々な無駄な刺激にあふれていると思いますか。そう思う場合、その無駄な刺激についてどう対処すればいいと思いますか。あるいはどう対処していますか。
- グローバリズムとしての社会主義は失敗したと思いますか。そう思う場合、社会主義に今後の可能性はあるでしょうか。
- 今、人生に迷っていますか。迷っている場合、そのことと個人を確立することでグローバリズムに抗うことがその解決に役立つと思いますか。そう思う場合は、なぜでしょうか。…
……などなど。。みなで積極的に論点を出して、議論を盛り上げていきましょう!!
★ ザフランスキー邦訳書 読書案内 ★
『E.T.A.ホフマン―ある懐疑的な夢想家の生涯』
19世紀ドイツで活躍した小説家・音楽家・法律家であった異能の人、ホフマンの評伝。死の間際までリウマチに抗いながら果敢に創作に挑む彼の姿に心打たれる!
19世紀ドイツで活躍した小説家・音楽家・法律家であった異能の人、ホフマンの評伝。死の間際までリウマチに抗いながら果敢に創作に挑む彼の姿に心打たれる!
『ショーペンハウアー―哲学の荒れ狂った時代の一つの伝記』
18世紀末から19世紀半ばにかけて彼が歩いたドイツの諸都市の魅力が存分に味わえる一冊。ショーペンハウアー家と親しかったゲーテも重要人物として登場!!
18世紀末から19世紀半ばにかけて彼が歩いたドイツの諸都市の魅力が存分に味わえる一冊。ショーペンハウアー家と親しかったゲーテも重要人物として登場!!
『ニーチェ―その思考の伝記』
ニーチェの生涯ではなく、どちらかといえばその思想の変遷に関心のある方どうぞ。彼が20世紀に及ぼした甚大な影響についても分かります。ニーチェVSワーグナーの藝術観の接近・対立・訣別のプロセスもスリリング!!!
ニーチェの生涯ではなく、どちらかといえばその思想の変遷に関心のある方どうぞ。彼が20世紀に及ぼした甚大な影響についても分かります。ニーチェVSワーグナーの藝術観の接近・対立・訣別のプロセスもスリリング!!!
『ハイデガー―ドイツの生んだ巨匠とその時代』
ハイデガーの愛人であり弟子であったアーレントのアンビバレントな視点に注目して読もう。彼のナチスへの関与についても厳しく取り扱う。敬愛の念あふれる傑作評伝。
ハイデガーの愛人であり弟子であったアーレントのアンビバレントな視点に注目して読もう。彼のナチスへの関与についても厳しく取り扱う。敬愛の念あふれる傑作評伝。
(以上、すべて法政大学出版局・叢書ウニベルシタスより刊行)