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 あの伝説が、いまよみがえる……。

 『小林多喜二と埴谷雄高』(ブイツーソリューション、2013)。在野研究の超新星・荒木優太の処女作とされつつも、150部しか刷らないマイクロパブリッシング(ルビ:戦略的自費出版)によって、発売から2年を待たずに完売。その破天荒な文体とブリリアントなテクスト読解から、一部界隈にカルト的な心酔者を生み出した……。

 噂が噂を呼び、定価800円の文庫が幻の一冊としてAmazonの古本で2万円を超えて高騰。「現代の奇書・多喜二と埴谷」を知らない業界人はモグリだとさえいわれている。

 そんな稀覯本が、この年末に大幅増補で新生する……その名も、『貧しい出版者――政治と文学と紙の屑』(フィルムアート社)。「小林多喜二と埴谷雄高」を第一部として、宮嶋資夫『坑夫』論や二葉亭四迷『平凡』論を収めた「貧しいテクスト論」を第二部、電子の本から紙の出版をチャレンジする悪戦苦闘をレポートした「自費出版録」を第三部にくわえ、書き下ろしの新序文「つながり一元論」も付した大満足の出血大ヴォリュームである。


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(ザ・資本主義の現実)

 以下 、新たな神話をつむぎだす黙示録(ルビ:もくじ)を掲載しておこう。


新序文   つながり一元論

第一部 『小林多喜二と埴谷雄高』

序章 「政治」と「文学」
アクティヴィストとひきこもり/多喜二のリーダビリティ/埴谷のノンリーダビリティ/「政治と文学」論争粗描/「政治と道徳」としての「政治と文学」/政治から遠く離れて/小林多喜二「と」埴谷雄高

第一章 散在する組織
零距離の距離感/臨場的興奮による団結/広義の散在的組織へ/安定的同一性の獲得/結節点の内面化/非常時共産党の特殊性/埴谷雄高の位階制批判/「組織者」首猛夫の体験/「目的意識」批判/女性か組織か/三つの「距離」と「抽象の体系」/福本イズムの「抽象」性

第二章 混在する組織
「ひとりぎめの連帯感」/不在=権力/ 表/裏の分節 /ひとりじゃない『独房』/見知らぬ同志の誕生/潜行する成員/潜行成員の特徴二つ/被監視意識の成立/侵食される散在的組織/「超人」首猛夫の体験/スパイリンチ事件/情報化するスパイ/忠誠と裏切り

第三章 組織の外へ?
埴谷雄高の孤独の発見/抽象に寄生する/相克を抱える自己/弾劾裁判/死者の電話箱/存在=宇宙の発見/細胞論/「不快」の両義性/「文学的肉眼」の系譜/多喜二の終わりなき世界/「循環小数」の絡み合い

第四章 政治「と」文学
虚数の世界/虚数から虚体へ/中心と心中/「最後の風景」を超えて/「政治」と「文学」の三本/コミュニカティヴな文学/読者参加型文学としての「報告文学」/テクストの傷つきやすさ/流通の不安/「白紙」の特権性/選言と連言/『党生活者』再考①/『党生活者』再考②/「か」と「と」

あとがき

第二部 貧しいテクスト論四篇

宮嶋資夫『坑夫』試論――ポスト・プロレタリア文学の暴力論
プレ・プロレタリア文学としての『坑夫』/仲間と闘う「軍鶏」/散在的共同体の成立/自由の条件/責任者なき共同体の暴力/ポスト・プロレタリア文学としての『坑夫』

くたばって終い?――二葉亭四迷『平凡』私論
くたばつて仕舞へ/三つの名/経済に拘束される小説家/死を看逃す/失われた〈終わり〉を求めて

人間の屑、テクストの屑

宮本百合子「雲母片」小論

第三部 自費出版録

在野研究の仕方――「しか(た)ない」?
教師になる「しかない」?/電子の本から紙の本へ/小林多喜二と流通する言葉

カネよりも自分が大事なんて言わせない
カネなんて要らない?/ハンス・アビング『金と芸術』を参考に/コールリッジに倣いて/背いて

自費出版本をAmazonで69冊売ってみた
フォロワーの8%が本を買った/新しい「知り合い」の誕生?/自費出版のコミュニケーション/自分の限界を知ること

あとがきふたたび――改題由来
関連作と重要語の索引


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(ハードカバーなだけでなく角背なのである。これぞ伝説、これぞレジェンド)

 思えば、エンソフでも『多喜二と埴谷』をめぐって色々なことを書いて(もらって)きた。少し整理しておく。


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(すでにサイン本も用意した。売れ残ると哀しいやつ)

 ……いやー、オレ頑張ってきたなー。なんか上手いコメントとかあんまりできませんね。放心状態というか。まあ別の仕事が立て込んでいるので感傷に浸ってる場合じゃないってのもあるんでしょうけど。

 買って欲しいけど、税込だと3000円越えるので世間の人々は躊躇するでしょうね。ま、長い時間かけて地道に売ってって、いつか気づいたら増刷できるくらいになったビックリ、みたいになってたらいいですよね。そんなわけで、今後ともよろしくお願いいたします。

荒木優太