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【SBS】新宿文藝シンジケート読書会、第78回概要
 
1.日時:2017年08月26日(土)18時〜20時
2.場所:マイスペース新宿区役所横店1号室
3.テーマ:田中 圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』を読む。

※ 参考図書は下記三冊。

岡田尊司『うつと気分障害 』(幻冬舎新書)
桜玉吉『幽玄漫玉日記⑥』、『御緩漫玉日記 ③』

4.レジュメ:さえきかずひこ(@UtuboKazu)

■ 上掲の通り、2017年8月26日土曜日に、第78回新宿文藝シンジケート 読書会が開かれました。同月に取り上げられたのは、田中 圭一『うつヌケ うつトンネルを抜けた人たち』(KADOKAWA、2017)。選書はさえきかずひこ(@UtuboKazu)です。レジュメとして書かれたエントリはこちら→ http://www.en-soph.org/archives/50431799.html




集合的な〈患者〉ではない、個人としての病、病者。

■ 今やすっかり現代病としの認知が確立され、2015年には患者数も『気分障害』を含めた総体として110万人を突破するほどの猛威をふるう『うつ』。それに伴ってか、関連書籍や雑誌での特集等も、ある種『ブーム』のように増え続けています。田中の『うつヌケ』は、その中でも、もっとも多数の関心を集めたものの一つではないでしょうか。

■ 手塚治虫の絵柄を使った下ネタのパロディ漫画で知られる田中は、自身も深刻なうつ症状に苦しんだ経験から本書のもとになる漫画の執筆を思いつくのですが、「苦しんでいる人のために、本を出さねばならない」という、殆ど啓示を受けたかのようなかれの意志は、かなり強い、自己啓発的なトーンとなって作品全体を貫いています。その部分は、過剰なほど漫画的なわかりやすさを追求した表現と共にAmazonレビューなどでも賛否出ているようですが、選書者のさえきは肯定的でした。さえきも会社員時代にうつを発症し、重苦しい闘病生活を送った過去をもっていますが、田中の本によって、うつ病罹患者個々人がどのような状態におかれているか、自身も含めた病者たちのその「しんどさ」への理解が進むのでないか、と。

■ 確かに、周囲からの無理解と厳しい視線が彼彼女たちの痛苦を増しているとすれば、出版の目的上、多少の誇張はむしろ表現上必要なものかもしれません。電子書籍版も含めて33万部を突破した『うつヌケ』の人気が本当にそれらを緩和してくれるのか、時点では分かりませんが、多数寄せられた共感の声をみるに、社会に大きな一石を投じたことは間違いないでしょう。


追記:うつと双極性障害

■ 今回は漫画を主に読むという初の回だったので、参考図書として岡田尊司『うつと気分障害 』(幻冬舎新書)も選ばれていました。こちらも一般向けの啓蒙書としてはとても良いもので、近年増加傾向にある新型うつ(非定型うつ)の紹介に加え、「『うつ』患者の相当多くに双極性障害(いわゆる躁鬱)の併発がある」という重要な知見が報告されています。

■ 後者が引き起こすトラブルに関しては、『うつヌケ』に登場する人たちのエピソードにもしばしばみられ、双極性障害の併発にも言及があります。執筆にあたって田中が当書を参照したかは分かりませんが、内容的にも2作は共通するところが多く、にも関わらず併せて言及されているケースは殆ど見かけません。その点を指摘できたことは、当回の意義だったと思います。ご興味野有る方は是非ご一読を。