吉川陽一郎《行為が態度になる時間》/撮影:東間嶺
引込線2017:吉川陽一郎《行為が態度になる時間》
■ 8月26日から9月24日にかけて、所沢市の廃止された学校給食センターを利用した、《引込線2017》という比較的大きな規模の美術展が開かれている。屋内外に広がる会場の入口付近では、参加作家の一人である吉川陽一郎氏が《行為が態度になる時間》と称された、〈実演〉を途切れなく行っていて、そばに置かれた大きなジェラルミン・ケースには、かれが自身の、いままさに行っている〈実演〉を木版画として刷ったものが四種並べられ、一枚200円で販売されている。
■ そして会期途中の9月3日日曜日から、そのジェラルミン・ケース上には、わたしの作った箱入りの写真/オブジェクト《行為のような演技が撮られたことは間違いないだろう》も並べられている。二年前、同じ場所で開かれた《引込線2015》で吉川氏が行った一連のパフォーマンス(〈実演〉ではない)、《行為のような演技をすることに間違いないだろう》を撮影したもので、のべ210枚ほどの写真を蛇腹のような形態につなげたものだ。公式の出品作というわけではなく、〈実演〉に付随した展示物、ぐらいの位置づけだろうか。
※ スライドショーで上映した動画。画質はHDの1080p、フルスクリーン設定で最適になります。
※ リファレンス・ルームでのプロジェクター上映。投影した壁の材質が、パフォーマンスの撮影場所とうまく噛み合って、相乗効果を生み出していた。
反復する身体と共に---『行為/態度の時間に置かれる写真』
■ 吉川さんと、かれのパフォーマンスについては、四年ほど前に【行為する男(吉川陽一郎)】というテキストを書いたことがあり、その時期くらいから、機会があるごとに少しずつ、わたしはかれの撮影をするようになっていった。今回の写真/オブジェクトは、そうした試みでは最初の、まとまった形態の作品となる。(※デジタル画像としては以下のFlickrもしくはAdobeのPublish Onlineで確認することができます)。
■ 《行為のような演技をすることに間違いないだろう》は、8つほどの「行為のような演技」で構成され、わたしの写真もそれに準じて区切られている。個別の内容へ細かく立ち入ることはしないが、いくつか具体的に書き出してみると、以下のようになる。
「ステンレスの調理器具を多数引っ掛けた被り物をしながらマンホール上を回ること」「廊下に次々細い鉄板を並べながら道を作り、一斗缶の蓋を面に装着してそこを歩くこと」「バケツを被って視界がふさがれた状態のまま、つっかえ棒をされた木の小箱を開けたりすること」
■ 作家の行為は、一見奇妙極まりない、意味不明なふるまいなのだけれども、注意深く観察すれば、いずれも日常的な身体の所作や肉体の動きを転倒、脱臼させ、自他の認識を更新しようとする企図が感じられる。バケツを被る、箱を開ける、目隠しをして歩く。眼前で行われる動作の組み合わせは、そうした単純で大雑把な言葉によっては説明できず、「なにが起きているか」を誰かに(まさにこのテキストが当てはまるように)語りづらい。それは観る者の安易な理解(=言語による分節化)から離れようとした結果であり、「行為のような演技」の本質と言えるのではないか。
■ いま現在、廃墟となった場所の片隅で連日行われている《行為が態度になる時間》においても、それは同じだ。中心軸と定めた地点には金属製のコップを被せた鉄筋が穿たれ、リード線が鉄球と支持棒に結び付けられている。コップと鉄棒が共振する響き、鉄球と地面がこすれる鋭く重たい音と共に作家は支持棒を押し、直径10m、一周30mの円周が維持されるように歩き続ける。歩行速度は周回25秒が目標とされ、展覧会のあいだずっと、延々と繰り返されるのだが、そうした不可解な〈行為=態度〉の時間は、訪れた観客たちに好奇と疑念、さらには滑稽さや不可解さの感覚をさまざまに引き起こさせるだろう。そして今回、その〈行為〉は、観客たちにも、自身が同じふるまいをする〈参加〉というかたちで開かれているのだ(わたしもぐるぐると回りました、何周も)。
※ 中心軸にはコップが被され、振動によって金属的な音が辺りに鳴り響いている。
■ 風雨に晒される屋外で紙の写真を見せるということは、ホワイトキューブでの展示やブックフェアのように整えられた環境とは全く違うものだし、観賞という意味では劣悪な状態だともいえる。けれども、写された行為の行為者が、それとはまた別の行為をし続ける時間のなかに写真が物体として置かれることは、そうしたマイナス以上に得難く貴重な機会であるように思う。既に会期も後半に突入していますが、《引込線》を見に行かれる方は、気に留めておいて下されば幸いです
※ (今後の展開はFBイベントでも追加していきます)。
※ (今後の展開はFBイベントでも追加していきます)。