アラサーはネットという名のサイバースペースを漂う。
 ソーシャルネットワークを駆使し、Webを交流/交通する・・・
 
 

年明けのある日、知人のアラサー女子から某SNSを通し新年会の招待を受け取った。最初、婚活パーティーのお誘いかと思った。なぜならそれがアラサー女子からの招待だからだ。アラサー女子といえば、婚活である。
 「アラサー」でググると検索上位に「アラサー女子の婚活事情」的な話題がけっこう並ぶ。晩婚化/非婚化がなにやら社会問題風に叫ばれるが(要は非婚化→少子高齢化に拍車→年金制度崩壊ということなので、それはそれで社会的な問題ではあるが)、それでもアラサーは未だにいわゆるひとつの「結婚適齢期」らしい。
 先にあげた年金制度云々もあるだろうし、アラサーみたいな若者なんだか中年なんだかわからない人はふらふらしてないでさっさと自立して家族を作ってくださいよ不安だからという、要は国や地域のセキュリティ管理面での目論見もあるかもしれない。セキュリティ向上のみならず何やら地域活性にもよさそうではないかというわけで、「地元で婚活」みたいなイベントをアラサーの親世代が開いているケースもあるようだ(もちろんここにはボチボチ引退しだした親世代のひまつぶしとにわかに湧きはじめた地域貢献欲へのガス抜き効果もある)。
 無縁社会と言われている現代、漠然とした将来の先行き不安から、あちこちでさまざまなコミュニティ生成が行なわれていると思うが、アラサーの婚活というのもいよいよ一種の「セーフティーネット」作りに近い色を強めてきた感じがある。
 加えて産業界としてはアラサーを搾取するのなら結婚は絶好のチャンス。めでたいだけではない。都合よく、手っ取り早い。財布のひももゆるい。ブランド志向でもない、車にも興味を持たない、そもそも不況で金がない、いわゆる一般にメディアが喧伝するような「地味」で「内向き」なアラサーに大量の消費を期待できるのは結婚という人生の一大イベントくらいしかなさそうだ。もしも彼らにお金がなくても結婚ならば両親2人と祖父母4人の財布、いわゆる「シックスポケット」から「公的資金」が注入されるだろう。そんな希望的観測もそこには含まれているに違いない(一方、アラフォーとかアラフィフになると、もう少し個人個人にお金がありそうだからもっと趣味的な消費を見込んでいる場合が多い。なつかしのアイドルCDリマスターBOXみたいなのとか、昔流行ったマンガの完全保存版セットとか。テレビの歌番組の当時のヒットチャートとかもそうだしアラフォー以上の年代をマーケット層に狙ったものは実に多いような気がする。特に通販とか多そう)。
 閑話休題。新年会に誘われたのだった。2月某日、我々の生まれ育った郊外都市において同窓会を兼ねた新年会を催します云々参加されよ云々。
 これは困った。特にトラウマや因縁があるわけではないが、地元だとか同窓会だとかどうも昔から苦手である。だから以前までは断っていた。というか、そもそもそのような類の誘いが来なかった。しかし、この現代、冒頭に書いたようにサイバースペースを漂うアラサーたちはネットを通じて容易につながる。Google検索され、写真を、動画を、そして互いの個人情報を容易にシェアする。データを共有したら機会を設けて次は三次元=リアルでつながる。まぁいかにも日本的と言われたBBS文化/匿名掲示板文化華やかりし頃のオフ会などもそうだったし、ネットを介した交流は今更目新しいものではない。しかし、その敷居はグンと下がった気配がある。
 昨夏、はじめてそういった同窓会的会合が開かれたので参加してみた。抵抗はあった。だがアラサーになり丸くなったのか、あえて行ってみた。行ってみると、意外にも楽しんでいる自分がそこにいるのだった。一次会で帰るつもりだったはずが、まぁいいか久々だしとついつい二次会まで行き、気がついたらディープな面子ばかり残った三次会のカラオケに参加しノリノリで朝までタンバリンなど叩いていたりするのだ。なんだ、楽しんでるんならいいじゃないか。そんな言葉も聞かれよう。それはそうなのだがなぜか腑に落ちない。俺はこんなはずじゃない俺はこんなはずじゃない俺はこんなはずじゃない。そんな言葉が頭のまわりをグルグルまわる。
 まぁ、何はともあれ駆け出しのアラサー研究家としては確実に参加しなければならないだろう。同窓会となれば研究対象のアラサーたちを一時に観察できるではないか。自分の好き嫌いにこだわっている場合ではない。自分の都合のいいことばかり考えていて何がアラサーだ!何が世界平和だ!(←関係ない)  授業に出ているだけで学力があがると思い目標は最低でもMARCHだの国公立だのと口先だけのお受験生と同じではないか(これはただの皮肉!でもお客様気分で授業を受けてるだけじゃ学力は未来永劫あがらないぞ!)。そんな意味不明なことを内心つぶやきながら葛藤しつつも、私は「ポチッとな」と新年会の参加ボタンをクリックした…
 …2月某日…都市郊外某居酒屋…。私は仕事があったため二次会から、その新年会に参加する。すでに来ていた数人のアラサーたちに遅れたことの詫びをいれつつ「ひさしぶりー」とか談笑しつつ、一方で二次会スタートの温度差を感じながら二次会はスタートする。数人のアラサーがビールを飲む。私は脳内メモ帳に書く。「アラサー、ビールを飲む」。また数人のアラサーがお茶を飲む。私は脳内に以下略。「アラサー、お茶を飲む」。はやくもこんなことしていたらキリがないことに私は気が付く。そこには酒を飲むアラサーお茶を飲むアラサー誕生日の近いアラサー働きすぎているアラサージモティなアラサー甘党のアラサー夕食をまだ食べていないアラサー息をするアラサーしゃべるアラサーまばたきをするアラサーなどなど、あらゆるアラサーがいた。これじゃあ「アラサーはもう全部!」ということになってしまうぞ!ああ、もうわかんないやい。なんなんだい、アラサーって。
 というわけで、私はアラサーなどというややこしいことをあっさり忘れてごく普通に同窓会を楽しんだのでR \(^o^)/