凡例

1:この翻訳はジルベール・シモンドン(Girbert Simondon)が1965年から1966年まで行った講義の記録 Imagination et Invention ” (Les Editions de la Transparence, 2008)の部分訳(63-64p)である。 
2:イタリック体の文章は「」に置き換えた。書物題名は『』、強調や引用を示す《》はそのまま用い、文中の大文字表記は〈〉に替えた。〔〕は訳者による注記である。
3:訳文中の青文字は訳注が末尾についた語や表現を指し、灰文字は訳者が自信なく訳した箇所を指している。また、太字強調は訳者の判断でつけたもので、著者によるものではない。
 


第二部、イメージの認知的内容 イメージと知覚


A、知覚的機能についての生物学的与件

1、第一次の生物学的カテゴリーと第二次の心的カテゴリー。領土へと組織化された環境の役割

 誘発性と意味作用の第一次的カテゴリーに従って実行される環境への関係は生物学として考察することができる。つまり、生物が実行すべき最初の情報の取得とは《捕食者、獲物、性的パートナー、同種の子供は……?》という問いに答えられる情報だ。状況のそのカテゴリーの一つひとつは、その状況に適当な全体的適合を与える、有機体の行動のシステムでの一定の運動に対応している。対象はここではまだ、個体的なものとして同定されておらず、経験のなかで既に把握された、あの対象として理解されている。生物学的な情報に関するカテゴリーは、まだ組織化も、理解も分類もされておらず、何時であれ何処であれ手当たり次第に現れ得る環境への最初の適合のカテゴリーだ。生物が己の領土の外で持ち続けるべきなのは警戒と用心の状態である。
 
 領土において、即ち、攻撃や防御等々の死活のカテゴリーに従う新しさがもうない世界において、生物は純粋に心的なアクティヴィティーを広げることができる。即ち、死活のカテゴリーに従った分類であるその最初の下準備を経て、対象の同定を経て広げることができる。問題は動物と人間を対立させることではなく、生物学的ないし心的なタイプの振る舞いの頻度を位置づけることだ。ところで、環境の組織化が押し進められるほどに、信号が出現したときに実行する準備の必要性、つまりは原初的カテゴリーに従って準備された下準備は縮小される。対象の類についての疑念がないから、極めて短いカテゴリー的な見当で、場が心的なアクテヴィティーのために自由になるのだ。〔逆に〕神経系が発達してないとき、つまりは情報の多感覚的な集中の可能性があまりに弱いときには、原初的組織化のアクテヴィティーはさらなる場所を占める。極端にいえば、動物は領土の内部でしか純粋に心的なアクテヴィティーを持つことはできず、動物に知覚能力と統合の可能性がなければないほどその領土は広く強く組織化されないのだ。ここでの結論は、とりわけ、人間が繰り広げる(迂回、道具)ような発明的想像力を含む問題解決は、環境を組織できなかった状況にあるときよりも、動物が自身の領土のなかにいるときの方がずっと成功する、ということだ。注意すべきは、とりわけ、狩りをするとき複雑で大きな迂回ができるジャガーは、捕獲行動において単純な迂回によって容易に解決する問題を目指すと著しい無気力を示すということだ。〔大きな迂回という〕その組織されていない新たな世界において、ジャガーは知的振る舞いを許す対象のような事物を見てはないが、敵や獲物、或いはまたパートナーがいることを予期する、知覚の生物学的体制に従って生きている。他方、人間も同じで、かつて退行régressionと名づけられていたものは、状況の新しさや動揺的性格の結果としての、生物学的なタイプの知覚的カテゴリーの活用のように理解することが必ずできる。全体的に新しい状況のすべて、標準状況における並外れた切断のすべては、第一次的誘発性に従った下準備によって始まる、知覚の分類のゼロ地点を取り戻す機会を構成する。