【画像】INSTANT LAB UNIVERSAL本体(撮影:東間 嶺、動画含め以下全て同じ)

INSTANT LAB UNIVERSAL

◆ 一週間ほど前、作品制作用として、『THE IMPOSSIBLE PROJECT』が販売する世界初のデジアナ変換デバイスである『INSTANT LAB UNIVERSAL』(以下ILU)を購入した。iPhoneやAndroid端末に読み込んだデジタルイメージをインスタントフィルムとして現像することができる、いわば小型現像ユニットだ。

◆ 『THE IMPOSSIBLE PROJECT』は、2008年に経営破綻したポラロイド社のインスタントカメラ用フィルムの再生を試みるプロジェクトだとのことで、ポ社の元技術者が閉鎖されたオランダ工場をリースし、かつての商品を再現しようと生産を行っている。日本での販売は、『THE IMPOSSIBLE PROJECT TOKYO』で、わたしは、今回そこへILUを注文した。

露光と現像

◆ ILUは、Polaroid600やSX-70等のポラロイドカメラ以外でも、前述した再生産フィルムを利用できるよう開発されたものであり、スマフォのデータを転写できる点では富士フィルムの『スマホ de チェキ』などとも共通する。オフィシャルの解説は下記のようなものだ。


INSTANT LABは、プリンター的要素を備えていますが、スマフォに表示された像がポラに変換される行程は、フィルム写真と同じ原理。言うなればプライベート(あなただけの)なラボラトリー(暗室)。
初期版が手作りのブラックボックスに収納されていたのも、そんな思いからでした。
あくまでも光りをしまう箱があり、映し出すフィルムがある。このもともとの写真の原理的考え方はくずしていません。INSTANT LABにスマフォを配置した瞬間、そこは暗室へと早変わり。
スマフォに表示された像の光をLABの中でむき出しになった印画紙が受ける。
光によって像が焼き付いたフィルムは、二本のローラーをくぐり顔を出します。
ローラーによって押し出された現像液はフィルムに一面に行き渡り像が浮き上がらせ思い出をポラというリアルなものにします。
 

◆ Google PlayとApp Storeで落とせる専用アプリで画像を選択し、ILUに端末をセット。認識が成功するとフラッシュの光で露光が開始されるので、本体側のシャッター窓を引き抜くことでフィルムに像が焼き付けられるという仕組みにになっている(詳しくは公式サイトの手順図を参照してほしい)。

(※ 下記の動画は思いつきで撮影したもので、わたしが自宅で現像している様子なのだけど、たまたま再生していた『ゲンロンカフェ完全ガイド』から流れる東浩紀の愚痴と、ピロリロリンというかわいい露光開始音のコントラストがわりとシュールだ。)


INSTANT LAB UNIVERSAL-2
(iPhone6plusをセットしたILUの図。排出されたフィルムは自動でフロッグタングに覆われ、遮光されている。十秒程したら取り出し、遮光環境下で現像完了を待つ)

INSTANT LAB UNIVERSAL(ディティール1)

INSTANT LAB UNIVERSAL(ディティール2)
(ILU本体側。レンズがデバイスに表示された画像を認識する)

乾燥と遮光

◆ 出力したフィルムは、従来のポラロイド製品と違って著しく不安定であり、現像に際してもモノクロで最短2分、カラーに至ってはなんと30分以上もかかってしまう(公式サイトによれば、ポラロイド社の倒産によって今や昔と同規模の設備が揃わないため、現像時間等のフィルム・クオリティを維持できないらしい)。現像完了後も、像の安定化のため一週間ほどはジップロックへ乾燥剤と共に封入し、光や湿度を調整することが望ましい。

IMPOSSIBLE DRY AGE KIT
(専用ジップロックは宇宙食の容器テイストな外観。)

インスタントなフィルムのアウラ的な何か

◆ 露光が完了し、像を結んだ写真は、過去のポラロイドフィルムが備え、好まれていた特徴をかなり忠実、というよりは過剰再現しているように感じる。「あの写らない感じ」と俗に言われる、輪郭線がぼんやりと滲み、ハイキーに霞んだ画面は、撮影された像の細部を消し去り、曖昧な空間に不鮮明なイメージを溶かしこむ。クラウドからデバイスに読み込んだデジタル画像であればどんなものでも転写することができるが、元データに施したさまざまな補正などを意図通り反映させるのはかなりの困難が伴う、というか極端に言えば殆どコントロール不能、出たとこ勝負、という印象だ。

INSTANT LAB画像-2
INSTANT LAB画像-1
(iPhoneで撮影した画像を何通りか現像。アウトレット品のフィルムを使ったものは、現像面に大小の欠落やムラが出ている

◆ 「それ風」というだけならPhotoshopなどを使ってデジタル上で『ポラロイド』を作り出すテクニックもさまざまにあるし、ばかりか、最近は本家ポラロイド社公認のスマフォアプリ "polamatic"などが極めて簡易かつ優秀なシミュレーション環境を提供してくれる(というか、上掲図のプリントでわたしも使いまくっている)。

◆ けれども、それらをデータ情報から出力するのではなく、半ば無理やり転写現像するプロセスには、かつてポラロイドフィルムに特有とされた色感や質感の魅力(特にモノクロフィルムの黒色部分)、ミニチュア的なそのサイズも含めた物体としてのアウラ性が確かに、強固に存在している(ような気がする)。

◆ 「いやいやそれただの懐古趣味でしょ!終わってますね!」と思う人もいるだろうし、わたしにしても、「はあ、まあ、ええ」と、理解するところもあり、ありながらも、現在のところそうではない、異なる可能性をより強く感じている。ので、いつまで生産が続くのか?という不安を抱えつつも、当面はメディウムとして使用を継続しよう(ギャグではない)と思う。