承前

 連載という形を採ってハルカトミユキについての長大かつ終わりなき散文を書き連ねようと試みてから早くも半年が経とうとしています。

 威勢よくある意味では短絡的な勢い任せにこの連載を始め、以来、間隔はまちまちとなりながらもかつて自分が想像していたよりも長く書き続けられているなというのがいまの率直な印象で、それこそ連載という形式が書き続けさせてくれました。
 
 しかしながら、やはり始めた以上は連載の終わり、いや、終わり方について考えざるをえなくなりました。
 
 もちろん、永遠に続けるという選択もあるでしょう。事実、私もハルカトミユキが解散するか私が死ぬまでは書き続けようかなと考えていた時期もありました。ただ、その選択肢を選ぶことは出来ませんでした。その理由は極めてシンプルで、自分自身が書く文章が、自分自身の対象とのかかわりかたが酷いものであったということにあります。
 
 元来、私にとって書くという行為はつねにその行為の虚しさとともにあるものでした。これは連載の初め三回で軽く触れたことでもありますが、どう書いても、あるいはほとんど同じことを意味しますが、どのように対象と距離を取ってみても何かしっくりこないという感覚が書いているとつねに残ります。
 
 ただ、そういった虚しさを抱えつつも、それを何とか克服したい、いや、せめて少しでも改善したいと思い、書くという選択肢を選ばさせてくれたのは、いくつかの成功した具体例ーー内田樹の二冊のレヴィナス論、千葉雅也の連載「アウト・イン・ザ・ワイルズ」、鈴木雅雄の『シュルレアリスム、あるいは痙攣する複数性』ーー、そして、対象と真摯に向かい合おうとするいくつもの批評文や論文の存在があったからでした。
 
 ある意味では私が書こうとしてきたことはすべてこれらの物真似です。そして、その物真似すら出来なかったというのが連載を終えようとする何よりの理由です。いや、物真似の失敗ならばまだ救い用があるのかもしれません。なぜなら、すべての反復は反復である限り必ず失敗し、その失敗の仕方において固有性を持つことが出来るからです。
 
 しかしながら、私の文章はとにかく何かカッコいい決め台詞を書いてやりたいという欲望を持ちながらそれでいて断言してしまうことの恐怖につねに怯えていました。そもそも、ハルカトミユキという漠然とした対象について書こうとしたことに無理があったのかもしれません。なぜなら、私の前には、ハルカトミユキ、ハルカ、ミユキ、そして、福島遥という四つもの異なる対象があったからです。

 そして、これがもっとも恥ずべきことではありますが、この文章自体が過去の自分への罪滅ぼし的な意味合いがありました。第四回で暗闇のなかで歌う一人の女性の姿が映った動画を紹介しましたが、それともう一つ私のなかで忘れられない動画があります。もう紹介することはしませんが、この二つの動画を観たとき、私は何かいけないものを目にしてしまったような気持ちになってしまいました。もう少し具体的に申せば、これは確かに福島遥なのだけれど、本当にこれはあのハルカなのかという感想を持ちました。そこには、私が知っていた美しいハルカはいませんでした。
 
 私は、そのどうしようもない思いをクリティカル・ポイントへとすり替えました。
 美しいハルカ、歯に衣着せぬ物言いのハルカというイメージから逸脱する断絶、影、亀裂、絶叫、沈黙のようなアイデアはすべてそのすり替えの産物です。
 
 そして、そのクリティカル・ポイントは自分でも驚くまでにハルカトミユキという対象を捉える上で有効なもののように思えました。しかしながら、ハルカトミユキは私にとって何よりもまず生身の二つの存在であり、二人の女性であり、二人の人間です。そして、私はこの二人の人間に到達するために書き始めたのであり、私にとってハルカトミユキについて書くこととはそれ以外の何物でもありません。
  
 が、先にも述べたように、連載はクリティカル・ポイントを利用した読解披露のような場になってしまいました(前回の終わりに予告した『空中で平泳ぎ』という表題に関する考察も同様のものになる予定でした)。

 随分と長くなってしまいました。
 
 本当は、こんな言い訳めいたことなど自分の心のうちにしまい、最後もカッコいい決め台詞を吐いて終わらせることが出来れば良かったのですが、少なくともこれが現段階での一番まともな終わり方かなと思っています。もちろん、私のハルカトミユキに対する想いはまったく変わっていません。私にとってハルカさんとミユキさんは唯一無二のお二人であり、存在していてくれてありがとうという感謝の言葉しかありません。
  
 まだまだ私が未熟だったということがわかっただけでも書き続けて良かったと思います。
 読者の皆さん、場を提供してくださったEn-Soph、En-Sophに誘って頂いた荒木さん、そして、ハルカトミユキに感謝したいと思います。

 半年間、本当にありがとうございました。
 
 杏ゝ颯太