Portrait:Depressed patients(Saeki Utubo Kazuhiko)-01
さえき近影【Portrait:Depressed patients(Saeki Utubo Kazuhiko)
(撮影・編集/東間 嶺、以下すべて同じ)



ウツノウミカラ、キカンセヨ!censored 再開にあたって  

掲題の通り、中断していたうつ日記の 公開を2012年9月分より再開することにした。理由は二つあって、ひとつは志半ばで中断していたこの日記を読みものとして完結させたいという気持ちがあること、ふたつめはこれを再開することで、すこしでも精神疾患(うつ病など)をお持ちの読者の方々の慰安・勇気付けになればと願うからである。ちなみに筆者は2009年の夏に発病して以来、約5年にわたって現在もなおうつ病の治療中である。

以前、この日記が中断された理由をいま明らかにすると、筆者の家族から、無断で各人についての記述を公開することはプライバシーの侵害にあたると抗議されたことにあり、現在よりも格段に症状が重かったわたしは、その声にうまく応じてコンテンツの軌道修正を図る余裕がなかったことにある。

というわけで、今回タイトルに"censored" と加えて記しているのは、文字通り(自己)検閲済みという意味であり、検閲の方法は前述の該当部分を泣く泣く削除したり、伏せ字にしたことによる。筆者の 家族や親族、友人らについての生々しい描写が十全にできないことは残念だが、一億総インターネット接続時代の代償であることをご賢察頂ければ幸いである。

それでは、お楽しみください。

さえき 拝

 



(2012年10月)



10月1日(無職65日目)

とうとう、きょうから10月である。10月になるなんて聞いていなかったのに、勝手に10月になってしまって心外である。しかし仕方ない。すでに10月になってしまった以上、そのことを心静かに受け止めて、ただ黙々と歩むばかりである。相変わらずやる気がなく、昼寝などをして過ごしてしまった。無為徒食そのものであった。
 


10月2日(無職66日目)

北沢福祉保健センターに自立支援(精神)の手続きに行った。他には特になにもせず寝ていた。やる気が出ないと口にするのも飽きてきたところである。
 


10月3日(無職67日目)

外出せねばならなかったが、やる気が出なくて外出できなかった。こんな馬鹿みたいな話があるか…と思いつつ、刻々と過ぎていく時計を見つめていた雨の午後だった。あっという間に夜になって悲しくなった。
 


10月4日(無職68日目)

7時起床。起きてすぐに洗濯物を畳んだ。久しぶりに朝から起きたので大変ねむい。気合いを入れて外出。近所のインドカレー屋で食事をしたあと、渋谷で健保の支払い&雇用保険の受給延長手続き。帰宅してシャワーを浴び、着替えてから、掃除。夕飯は近所の中華料理屋に行ったが、頼んだ五目焼きそばが驚くほどまずくてびっくり。もったいなかったが、半分以上残して退出。退出してすぐに雨に降られ濡れて帰った。
 

Portrait:Depressed patients(Saeki Utubo Kazuhiko)-02


10月6日(無職70日目)

Hさんのコンサートがあったので、夕刻から目黒に行った。コンサートはなかなかナイスだった。Hさんの音楽の リズム感は独特で、日本人には乗りにくい感じもあるが、とてもダンサブルで楽しかった。コンサートに集ったメンバーで、22時過ぎころまで飲み食いして解散。10人以上の大所帯だったので、会話は散漫になってしまったが、まぁそういうこともたまにあるには良いかと思いつつ帰宅。
 


10月7日(無職71日目)

夕刻より要町のKさんを尋ねる。要町のサンクスでインドの青鬼という名前のエールと、コロッケを買い、バス停 で座って食べる。要町界隈をKさんの案内で散歩し、酒屋で今度はビールで乾杯。その後、酒屋で買った赤ワインとセブンイレブンで買ったおでんをK邸に持ち 込み、ゴンザレス やかみむら泰一、市野元彦やBen Monder Trio、ビーチボーイズやビートルズなどを聴きつつ歓談。ついつい長居をしてしまい、ラム酒まで舐めながら23時半に退出し、日付が変わってから帰宅。
 

Portrait:Depressed patients(Saeki Utubo Kazuhiko)-03


10月8日(無職72日目)

夕刻より日比谷野音にて、ライブを鑑賞。終演後、新宿に移動し、A女史、N氏らと飲酒。日付が変わってから帰宅。
 


10月9日(無職73日目)

昼過ぎからテレビ東京の午後のロードショーを観る。『アサルト13』という愚にもつかないサスペンス映画。 ロードショーの間に民放テレビだからコマーシャルが入るのだが、青汁と生命保険のCMばかりだった。平日の昼下がりにテレビを観ている層が目に浮かんでく る。気だるい雰囲気もある。昼寝をしたあとは、ぼんやりと過ごして夜になった。むなしい一日だった。
 


10月10日(無職73日目)

やる気がなく、長い昼寝をしていたと思われる。
 

Portrait:Depressed patients(Saeki Utubo Kazuhiko)-04


10月11日(無職74日目)

夕刻より気力を振り絞って、近所の梅ヶ丘図書館へ行く。あとはほとんど寝ていた。
 


10月12日(無職75日目)

品川の病院に行ったあとTwitterで知り合ったAさんと新宿歌舞伎町で飲んだ。日付が変わってから帰宅。
 


10月13日(無職76日目)

まったく記憶が無いorz
ツイートを見返したが、自宅でワイン一本空けて記憶を無くしたらしいorz
 


10月14日(無職77日目)

夕刻より京王線で芦花公園へ。中島義道主宰の哲学塾カントへ。講義はヘーゲルの弁証法と自由について。なかなか難しかったが、面白かった。
 


10月15日(無職78日目)

一日中、中島義道『観念的生活』(文藝春秋)を読みながら、寝たり起きたりを繰り返す。昼食と夕食だけ外出というのもいかがなものか。
 


10月16日(無職79日目)

pha『ニートの歩き方』(技術評論社)読了。月末の読書会の課題図書なのだが、どういう風に議論につなげたらいいだろうかとしばし考えたが、あまり悩んでも仕方ないだろう。
 


10月18日(無職81日目)

午前中 は、品川の精神科に通院。夕刻より、旧友F氏の車で、東久留米にラーメンを食べにいった。そのあと、F氏邸に場所を変えて、近況を交換したり、思いついた 話をいろいろした。お互いの家族についての話が一番多かったような気がする。帰りも雨の中、自宅まで送ってもらい、深謝。
 


10月19日(無職82日目)

新宿のタワーレコードに久しぶりに行って、ギル・エヴァンズ特集の載っているintoxicate(フリー マガジン)をもらい、なぜかニューエイジコーナーで、今年の春にリリースされた中島ノブユキ『カンチェラーレ』を購入。中島さんのピアノソロアルバムと聞 いていたので、聴くのが楽しみだったのだが、ようやく手に入れることができてうれしい。
 


10月20日(無職83日目)

午前中、散歩。
 


10月21日(無職84日目)

旧友のF氏に誘われて、午後2時には西武園駅にいた。多摩湖畔を散策しながら、西武多摩湖線と並走するサイクリングロードを2時間ほど歩き、東久留米にあるF氏の自宅まで行く。久しぶりに長距離の運動をした。春の高知旅行以来だ。F氏宅で休憩してから、6時過ぎに小平にある回転寿司屋に行った。日曜の夜ということもあり、混雑していて小一時間待たされたが、それもまた良し。回転寿司 を発明した人の天才性について話したり、ベルトコンベア方式による合理的なサービス提供のあり方がかなりキッチュに感じられるなど、とりとめなく話をし た。回転寿司屋には初めて行ったので面白かった。寿司屋で小一時間食事をし、そのあとF氏宅に戻って深夜11時を過ぎるまでいろいろと話は尽きなかった。BGMはぼくが持参した細野晴臣のモナドボックス。深夜にも関わらずF氏には実家まで送って頂いて、感謝の念に絶えない。ありがたい一日だった。
 


10月22日(無職85日目)

一日中憂鬱で、自殺することを何度も考えたが、実行する勇気、集中力、行動力が無いことに気づく。夕飯は*がジンギスカンを用意してくれたので、それを食べながらワインを飲んだ。死んでしまいたいと思いながらワインを飲むなんて、なんて滑稽なんだろう。しかも死にたいのに、腹が減るのだ。恥ずかしくて穴があったら入りたいとはこの事だ。
 

Portrait:Depressed patients(Saeki Utubo Kazuhiko)-05


10月23日(無職86日目)

一日中憂鬱で、自殺について考えたが、それを考えるのにも疲れてしまい自室でジャズを聴いて過ごした。サッ チモ、モンク、エロール・ガーナー、中島ノブユキ、菊地成孔、ジョニー・グリフィン、エラ・フィッツジェラルドなど。どれも素晴らしいが、久しぶりに聴い たジョニー・グリフィンのブリブリしたフレージングとエラの力強く爽快な節回しが心に残った。雨の中外出。7時半に新所沢で仕事帰りのN さんとジャズバーに入り、カクテルを飲みつつ、3時間ほどレコードを聴く。チェット・ベイカー、メル・トーメ、マット・デニスなど。男性ヴォーカルものが 沁みる季節になってきたな、と思う。人と会って話しているときはまだいいのだが、深夜ひとりで踏切の前に立ったりすると、どういうタイミングで飛び込んだ ら確実に死ねるだろうか、と真剣に考えてしまう。臆病だから実行はできないのだが。
 


10月24日(無職87日目)

一日中家の中で自殺について考えていた。勇気は無く、実行できなかった。一日中自殺について考えたので疲れた。
 


10月25日(無職88日目)

夕方、実家の近所の踏切に行ってみたが、勇気が出なくて飛び込めなかった。結局コンビニで、ビールを買って飲む。タバ コをすぱすぱやりながら飲む。たいして酔わないし、酒も旨くない。自分が粗大ごみにでもなったかのような気分で近所をウロウロする。あぁ、死にたい、死にたいなぁと思いながらウロウロ。そんな一日。
 


10月26日(無職89日目)

一日中、死にたい気持ちがして苦しく、悲しい。昼飯を食べながら、思わず泣いてしまう。*が箸を止めて、こちらを見ている。滑稽である。実に、滑稽である。
 


10月27日(無職90日目)

朝8時に起床。実家で朝食を済ませて、外出。電車を東村山~国分寺~吉祥寺と乗り継ぎ、自宅の近所の皮膚科に寄ってから一週間ぶりに自宅に帰る。
 


10月28日(無職91日目)

朝9時半に起床。午後、雨の中傘を差しながら散歩。夜、料理などしたので疲れてしまい、早く寝た。体力が低下していることをしみじみと感じさせられた一日だった。
 


10月29日(無職92日目)

朝9時半に起床。午後、散歩1時間。夕方、自室を掃除。朝7時に起きるため、早めに就寝した。
 


10月30日(無職93日目)

朝9時半に起床。午後、散歩1時間(狭山ヶ丘駅~実家)。夕方、自室を掃除。早めに就寝しようとしたが、漫画を読んでいたら眠れなくなって、結局、深夜2時頃に眠った。
 


10月31日(無職94日目)

とうとう10月も終わることになった。ことしもあっという間だったなという感慨が無くは無いが、わたしといえばこの一年なにひとつ生産的なことをしなかったので、残りわずかではあるが、なんとか社会復帰の道筋をつけられるよう本気で励みたい。朝8時起床。新所沢駅前で健康保険や住民税の支払。6桁ある平成24年度分住民税の存在感に驚きを隠せないが、無職でも納税の義務を果たさねばならない世知辛い世の中である。散歩1時間(新所沢駅~実家)。
 

Portrait:Depressed patients(Saeki Utubo Kazuhiko)-06