(承前)
言葉にもならない想いは歌になどなるはずもなく絶叫をする
福島遥「宙づりの昼」『空中で平泳ぎ』
それはあまりにも突然でした。
一曲目の歌を歌い出したかと思うと、彼女はすぐに歌うことをやめ、この叫びにマイクなんてものは必要ないとでも言わんばかりに二歩ほど後ろに下がり、ややうつむき気味にうぁぁぁぁぁ!と叫んだのです。
驚く聴衆、と思いきやそんなこともなかったようです(もちろん、あくまで雰囲気の範囲内ではということですが)。実際、私自身も間奏に行われた二度目のそれにはあまり驚きませんでした。それは間違いなく曲の一部である。そのような印象を持ちました。しかしながら、あの一度目の絶叫は、てっきりこれから歌を聴くのだと思っていた私に物凄い衝撃を与えました。
始まった、
リズムに乗る、
歌詞に耳をすます、
あれ?止まった、
うぁぁぁぁぁ!
私はライブに歌を聴きに来たわけですが、歌う方は別にそこで何をしても自由なんだなというか、持ち時間の間中ひたすら喋り倒しても、ひたすら叫び続けても、私たちはそれを黙って聴いてしまうのではないか、そんなことを帰って思いました。
いや、嘘です。
いま書いて既成事実にしました。でも、ひたすらハルカさんが叫ぶだけのライブも一度は観てみたいですね。その間、ミユキさんは直立不動でしょうか?
ミユキさんの直立不動?
そう疑問に思われる方もいるかもしれませんが、実はハルカさんが弾き語りをしているときのミユキさんの直立不動は物凄い迫力があるのです。なので、叫ぶハルカ、直立不動のミユキという構図は、最高に熱い瞬間かもしれないですね。
そもそもこの日(七月十三日)のライブは、すべて未発表曲をするということだったのです。それで行ってみようと思ったのですが、実際に私が聴いたのは、未発表曲と、未発表の叫びでした。
さて、話は変わります。
この連載の現在の状況を確認しておきましょう。
現在、連載は、一見歯切れ良く言葉を紡ぎ続けているかのようにみえる「ハルカ」のそうではない三つの側面、すなわち、「嘆き」、「絶叫」、「沈黙」をなんとか顕在化させてみようとしている最中なのです(そうですよね?)。
ただ、そうは言いつつもこれがなかなか難しい。
「嘆き」については『POOL』で扱いましたが、残り二つはどうしようかなあと思っていたところでした。まあでも、「絶叫」については私があれこれ書くよりも(とか言って、実際は冒頭の短歌ぐらいしか糸口がなかったのですが)、ご本人が身振りで示してくれたのでこれで良しとします。
さあ、これで残りは一つ、「沈黙」です。
これについては以前に二人の一言、すなわち、ライブのたびに自身が演奏するキーボードに「書かれた言葉」として貼られる「ミユキの一言」(最近もやっているのかわかりませんが、過去に貼られた言葉は、「どつく」、「揺らす」、「ありえない」、「ギリギリ」、「降参しな」など、「ハルカトミユキ 一言」でTwitter検索かけるといくつか出てきます)と、わずか四文字ながら歌の中で何度か歌われ、そのたびに尋常ではない存在感を示す「ごめんね」という「ハルカの一言」に着目して書いたのですが、それ以上のことを書けそうもない(そもそもこれまでも書けてない)ので興味のある人は各自読んでくださいということにしておきます。
ただまあ、書いてしまった以上、これとは別の形にはなりますが、次回に書いてみようと思います。
短歌とは、沈黙の空間である。
懲りもせずに根拠の薄い断言をまたもやしてしまいました。
まあ、これはエッセイ=試論ですからね。書いてみて、失敗してもいいのです。失敗しても。
では、また。
杏ゝ颯太