凡例1:この翻訳はジルベール・シモンドン(Girbert Simondon)が1965年から1966年まで行った講義の記録“ Imagination et Invention ” (Les Editions de la Transparence, 2008)の部分訳(25~26p)である。2:イタリック体の文章は「」に置き換えた。書物題名は『』、強調や引用を示す《》はそのまま用い、文中の大文字表記は〈〉に替えた。〔〕は訳者による注記である。3:訳文中の青文字は訳注が末尾についた語や表現を指し、灰文字は訳者が自信なく訳した箇所を指している。また、太字強調は訳者の判断でつけたもので、著者によるものではない。
2、イメージ発生のサイクルとしての生命
もし生命が一日に比較できるのだとしたら、若さとは朝になるだろう。何故ならば予測の原理にある、動力が無制限な自由の性格は、その二つの位相〔若さと朝〕に共通しているからだ。個体の発達développementは、対象遭遇の公準であり、また欲望の方針に従って想像された生命の状況の予測でもある、共通の起源に由来する力能の複数性を出現させ継起的に分岐させる。若い存在の躍動において、意志の無制限性はあらゆる可能な現実を包んだものenveloppeを生全体に対して投影する。年を経ると、制限や障害物のような現実的なものの経験を受け入れ、潜在的に投影されていた行為の束が拡散し、跳ね返り、屈折する。そこでの対象には組織化が伴っている。予測的投影の対象を方針は常に引き伸ばしはしないという組織化だ。成熟が成功した適合において、最良の場合というのは、出来事の秩序と主体のアクティヴィティーの秩序とに、少なくとも部分的な平行関係があるような場合だ。すべてを構築したり、意志したり、事前に考えておいたり、計画に従って作ったりはできないが、しかし構築の計画は斟酌される、領土territoireのような現実的なものとの関係を主体は組織する。主体がアクティヴィティーや諸計画さえももつというイメージは状況の反射reflet、つまりは現実的なものの参照と認知的要素の優位を意味している。主体が挿入されたアクティヴィティーを部分的に放棄するとき、生命の夕方は、イメージ‐象徴の最初の余地を残す。それは名誉と肩書きの形になって、社会的次元を孕むが、生命の基礎的作用の「事後的post facto」な交流と再喚起の手段として、自己意識内で魔術的な力と主観的反響も孕んでいる。そしてアナロジーを用いた仮説を徹底化さすと、老化とは発明、つまりは更新の可能性に対応していると言わねばならない。たとえば私たちの社会のなかではそこまで行かないが、古代においては老人の予言的役割には、長い経験の賜物である英知の所有が付け加わっていた。長老は約束の地へ部族を導く術を心得ている。今日の老人たちが格下げられたのは相対的にいって、先見の明の公式的かつ公的な利用と集団的思考の予言的モードが衰退しているからだ。これは実践的未来学の多数性に取って代わった。
3、想像力と四季
気候の穏やかな地域、或いは極地的な地域にあってさえも、過去に耐え忍んできた集団的生活は、農作業のリズムに、また労働と余暇の交替に従っているだろう四季の影響を現在でも耐え忍んでいる。エスキモーの生活では、夏が世界の肯定的ヴィジョンに対応した孤独と個体的アクティヴィティーの時だというのに、北極の長い夜が祭式や儀式を伴う集団的生活を導くということをモースは指摘した。私たちの神話学のなかで春は、蘇り、欲望、躍動、計画の時だ。夏は、その力が文化に備わるとき、労働のリアリズム、達成しつつある行動、一年の間の真昼の時だといえる。そして、秋になると、行動は緩み、一年はすたれ、労働は出来上がった収穫の形になって総計される。一年が良かったか悪かったか、一年が尽き果てる。その時、死者の思い出が喚起される。最後に、冬は一日と一日の間の夜のように、休眠状態もとに再生への期待を運んでくる。かつて、一年の始まりは復活祭にあり、それは一年のサイクルの朝のようなものだった。8月15日〔聖母マリア被昇天祭、つまり聖母マリアがその人生の終わりに、肉体と霊魂を伴って天国にあげられたという出来事を記念する祝日〕は真昼の頃、働き盛りの生の充実した成熟に比較できるものだ。《「夏」の帝の「真昼時」は……》という詩のイメージには、その最高潮が示されている。季節の神話学は人生の年齢や一日の時間の神話学に合流する。何故ならば、そのどのサイクルも多かれ少なかれ深い仕方でイメージ発生とシンクロしており、イメージのサイクルの三位相のうちの一つが一時的優勢であることを通じて理解されるからだ。
【訳註】
・モース――フランスの文化人類学者であるマルセル・モース(Marcel Mausss、1872‐1950)。アメリカの先住民族が行う贈与行為(ポトラッチ)を分析した、『贈与論』が有名。エスキモーの生活の分析については、邦訳『エスキモー社会――その季節的変異に関する社会』(未来社、1981)を参照。
・復活祭――イースター。イエス・キリストの復活を祝い、記念する日。日付は3月から4月の間、毎年変わる。
・「夏」の帝の「真昼時」は…… ――フランスの詩人、シャルル=マリ=ルネ・ルコント・ド・リール(Charles-Marie-René Leconte de Lisle、1818-1894)の詩「真昼」(Midi)の冒頭。「「夏」の帝の「真昼時」は、大野が原に広ごりて、/白銀色の布引に、青天くだし天降しぬ。/寂たるよもの光景かな。耀く虚空、風絶えて、/炎のころも、纏ひたる地の熟睡の静心」(上田敏訳)と続く。