凡例  

1:この翻訳はジルベール・シモンドン(Girbert Simondon)が1965年から1966年まで行った講義の記録 Imagination et Invention ” (Les Editions de la Transparence, 2008)の部分訳(18 ~21p)である。 
2:イタリック体の文章は「」に置き換えた。書物題名は『』、強調や引用を示す《》はそのまま用い、文中の大文字表記は〈〉に替えた。〔〕は訳者による注記である。
3:訳文中の青文字は訳注が末尾についた語や表現を指し、灰文字は訳者が自信なく訳した箇所を指している。また、太字強調は訳者の判断でつけたもので、著者によるものではない。
 


B、イメージの発生的ダイナミズムの仮説:位相と水準

 個体発生の研究は、生物のどんな器官も機能的システムも一様な仕方で覆われていないということを成長のプロセスによって示した。つまり、とりわけ複雑な有機体において、相互的に生まれる部分的成長では個々の間の位相差déphasagesが、つまり差異の速度が存在する。従って、有機体が完全な成体となるときを明確にすることは大変難しくなる。他方で、成長と発達は、再組織化に続いていく脱分化dédifférenciationをする変動期によって区切られた、諸段階とサイクルを明らかにしている。このようなプロセスはある種の生物の変態の期間に顕著であるが、これは人間の行動の有機的な発達と個体発生のなかにもあることなのだ。

 その条件のなかでは、心的psychiqueアクティヴィティーである組織化されたアクティヴィティー、その構造的機能的な下位集合のようにして心的mentalesイメージを想定することはできないだろうか? その下位集合は発達途上の器官のダイナミズム、つまり諸器官のシステムと類似した発生的ダイナミズムを有し、それは本質的に三つの段階を区別することができるだろう。第一には自発的成長の段階で、それは機能的アクティヴィティーが自らを事前に適応させるse préadapteところの対象の経験に先立つものだ。イメージにおいては、これは有機的成長の胚のembryonnaires諸段階の均衡であろう。つまり、ひとつひとつのイメージ、即ち運動的知覚的なアクティヴィティーの胚は、ここでは対自的に発達する。環境の経験の外や、自由な状態の外の参照によって管理されていない、即ち心的組織化の他の下位集合と厳密な相関関係を欠いた予測のようなものだ。イメージは適応ではなく、前-適応を示す。続いて、〔第二段階では〕イメージは環境から来る情報の受容モードとその刺激に対する反応図式の源泉となる。知覚的-運動的経験のなかで、イメージは効果的直接的に機能的に生成する。イメージは有機体と環境の間の関係の諸次元に応じて相関する内的グループ分けgroupementを組織化させ安定化させる。最後に、〔第三段階では〕学びに対応した環境との相互作用のこの段階を経て、情動的-感情的反響は、結びつき、喚起、交流のシステマティックなモードに従い、イメージの組織化を完成させる。こうして真に心的な世界が生まれる。主体が、強制性、トポロジー、複雑なアクセスのモードを帯びた「外的環境の類似」を有したことで、そこには局部がうまれ、域がうまれ、質的キーポイントがうまれる。別言すれば、対象に遭遇したとき、イメージは相互依存の位相にある原初的な相互的独立の規定を突き抜けて、イメージ相互の関係を変化さす継起的変動を被る。そして、システマティックで必然的な結びつきの最終状態では、原初的に運動的なエネルギーはシステムの緊張となっている。このとき発明にできることは、発生の再開ができる自由なイメージの新状態に向けて、水準の変化を使って、心的アクティヴィティーを導く、成熟したイメージのシステムの「組織化の変化」である。つまり発明とはイメージのサイクルの再生なのだ。再生は原初的予測、それに内的象徴的なシステム化には可能ではなかった適応、その外に出るだろう新たな予測で環境に接近することを可能にする。別言すれば、発明は水準の変化を行う。発明はサイクルの終わりと新たなサイクルの始まりを印づける。そのサイクルはどれも三つの位相、予測、経験、システム化〔=体系化〕でできている

 イメージ発生の位相のひとつひとつは、アクティヴィティー、即ち支配的《機能》と釣り合う状態にある。

 環境から提供された対象という試験に先行して、イメージは、予測として、内生的運動的要素が豊かである。動物行動学の研究が明らかにした行動の遺伝的調整にイメージは釣り合っている。その強度は、出現や行動の幻覚的モード(「真空行動Leerlaufreaktion」の場合、それはアクティヴィティーが空回りしている)に至るまで、動機motivationの水準を伴って変化しうる。この意味において、「アプリオリなイメージimage a priori」について語ることができ、そのアクティヴィティーの第一次的運動的要素の優勢は、おそらくは個体における発達がそうであるように、種の発達のなかで、運動性が行動の長期的予測としての感覚性に先行するという事実に近い。

 環境との直接的関係のなかで、イメージは偶発的な情報の受容モードであるところの局所的localeアクティヴィティーを供給する。それは短期的予測のことであり、状況に対し順次ふさわしいものになり、そして再適応し、前-知覚的ないし内部-知覚的図式の形で対象の構造に調整された予測は、〔第二次的な〕認知内容の優勢によって強調されることになる。〔アプリオリという〕言葉の類似と拡張を用いて、「今現在のa praesenti」イメージについて語ることができる。そのイメージはあるときは見間違いや幻影の形になって浮き上がった状態として目立つのに、普段は知覚的アクティヴィティーに役立つので目立つことなく通り過ぎていく。

 知覚を経ると、〔第三次的な〕優勢な位置を占めるのが、情動的-感情的効果、反響である。つまり状況がもう存在しないときに保存されるイメージの突出点である。ここで問題となっている、想起の、その「アポステリオリなイメージa posteriori」において、イメージ喚起に由来する状況の蘇り能力と一緒になって生じる、イメージ‐想起のカテゴリーは、心理学においては新しくないといえる。しかしすべての想起はイメージではないということは書き留めておかねばならない。想起が真の「ア・ポステリオリ」なイメージであるのは、組織化する力を授ける含蓄prégnanceと強度を伴って露わになるときだ。この特別な想起は自己組織化しながら過ぎ去った経験のシステムのトポロジーにとって意味をもつ突出点である。これが体勢attitudesが再アクティヴ化する源泉であり、想起は質的な力をもち、経験の想起としてよりは寧ろ状況のサンプルとして現われる。試験された現実的な他性altéritéへの参照を含み対象的密度を保存している、このイメージを用いることで、カリカチュアや、アーチや、芸術作品に具現化可能な、外的実在の「似姿analogon」を自らのうちに保存保持することができる。この特別な想起に取り込まれた感情的密度と質的ニュアンスの束は、ある任務を構成する。つまりは、「アプリオリ」なイメージと経験が提供してきた知覚したものの異質的多数性である、長期的予測の自発的内生的運動を、保存すると同時に凝縮するシステム状態を構成するのだ。内生的運動的エネルギーと環境から来た情報の比率が等しくなるこの綜合は、主体と環境との間の関係の具体的な象徴である。この特別な混淆は環境の中に挿れる心的アクティヴィティーの挿入点を表している。挿入点は状況を凝縮し、効力と傾向のネットワークと共に状況を保存し、それを再生〔再利用〕できるようにさせる。この意味において、イメージ-想起の世界は真の心的宇宙を実現するよりかは寧ろ、極化し緊張した心的宇宙の境界と路を構成するのだ。

 その宇宙での外生的構造に結ばれている運動は、ポテンシャルなモードに従って宙吊り状態の力とエネルギーに生成しており、宇宙は象徴の類似的組織化である。それが飽和すると、新しい経験を受容することがもはやできなくなり、その時こそ主体は試験済みの両立不可能性incompatibilitésを止揚することができる、より大きく、より《強力な》、組織化の次元を見つけ出すためにその構造を変化させねばならない。変化の水準として、発明が新たなサイクルを生み発達させることができなかったとき、動物行動学的方法における、象徴宇宙の構造変化の失敗が明らかとなる。

 イメージ発生のこの一般的仮説は弁証法的解釈(「アポステリオリ」なイメージは綜合の性格をもつ)に導かれるが、有機体と環境の関係の弁証法的アスペクトは発生プロセスの一部でしかない。経験に先立つ、「定立的thétique」位相〔アプリオリなイメージ〕は、有機体の自発性と経験以前に繰り広げられる予測のアクティヴィティーの先在に翻訳できる。つまり経験とは既に有機体と環境の間の最も緊密な関係に対応した、「反定立的antithétique」位相なのである。別言すれば、有機体と環境の関係の徹底的な研究は弁証法的な図式の起源を理解することを許可し、そして起源を生成の理解可能性の無条件的原理として保存する代わりに、位置づけ、関連づけるよう案内する。もし弁証法的進化の観念が有効であり続けるとしたら、それは様々な位相を通過するイメージ組織化のモードの漸進的継起の主張としてだけであり、その組織化のモードはシステム化する反省的思考に支点を提供することのできる《論理》と同じだけ存在している。



 【訳註】
 
脱分化dédifférenciation――既に分化した細胞が、未分化の状態に変化すること。植物のカルス、動物の傷口近くの細胞など。
トポロジー――位相幾何学。アンリ・ポアンカレにより初めて組織的に研究され、質的な量を扱う数学として発展。トポロジーにおいては連続的に変形が可能な図形は全て同一視される。図形をやわらかく扱う。よく持ち出される例でいえば、トポロジーではコーヒーカップとドーナッツが同じもの(どちらも穴がひとつ)だとみなされる。
真空行動Leerlaufreaktion――対象が不在のまま行動衝動が空回りする現象。例えば、性衝動の高まった雄が雌を探し求めてあちこち動き回る現象や、狩りの機会をなくした家猫が夜中屋内で暴れまわる現象。
a praesenti――ラテン語、いまここで、この場合の、の意。予測、経験、システム化というイメージのサイクルの三つの位相に、それぞれ「a priori」「a praesenti」「a posteriori」の形容が対応していることに注意。