「どうですか?」
「うーん、なんか頭の中がごそごそしますね。それに耳鳴りもする」
「久しぶりに自分の魂と一体化した感想を…!」
「いやぁ、なんというか、なんかもう何もかもめんどくさいです…」
「え?何かポジティブなバイブスは無いんですか?」
「んー、まったく無いですね。21000円は高かったなぁという印象。あと、鳥餅売り場のレジのお姉さんが可愛かったですね」
「………」
「やっぱり生きていてもめんどくさいことばっかりですね」
「…………」
「魂が戻ってきたらきたで、まためんどくさい。この魂のためにわたしはまた生きていかなくちゃならない」
「……………」
「わたしはどうしてまだ生きているんだろうなぁ。」
「………………」
「あ、中村さんすいません。呆れてますよね…?」
「…………………」
「正直、どうしてこんなやつの手助けをしてしまったんだろうと後悔してさえいる…違いますか?」
「……………………」
「なんか、この魂、入れ物にジャストフィットしない感じがするんですよね。こう、サイズが違うんじゃないかと」
「…知るか!」
「ええっ、何ですって?」
「そんなこと、知るかよ!」
「中村さん…もしかしてマジギレ………?」
「生きる気力出せよ!さえき!」
「ええっ!」
「やる気が無いとか言ってないでやる気出せよ!さえき!!」
「それが言われて出るようなら苦労しませんよ、もう、嫌だなぁ、中村さんったら、マジギレする振りが上手なんだからぁ!!!」
「んぁ?なんだと?マジギレする振りが上手なんだから…だと!?」
「ええっ!違うの?」
「もう完全にマジギレてんですけど…それが、分からないの………?」
「………す、すみません、じ、次回からやる気出します………」
「次回なんてねえよ!」
「ええっ!」
「チャンスは一度きりだ、次回なんてねえよ!このバカ!!」
「ひえぇ…」
「お前はもう…おしまいだよ…」
「ええっ!おしまいなんですか…?」
「やる気の無い奴はどこにいたってのけ者扱いされっぞ…!」
「おしまい…?」
「そうだよ、お前の人生、おしまいだよ…!」
「そ、そんなぁ、嫌です、嫌です、ぼくはまだ死にたくはない!」
「さぁ、そこに這いつくばって、命乞いをしろ!!!」
「ひえぇ、怖いよう…」
「おれの真の正体を教えてやろう。中村とは世を忍ぶ仮の姿!おれは、おれの正体はなぁウフフフフ、死神だ!!!」
「なにぃ、その展開!聞いてないよぉっ!!」
「さぁ、泣け、叫べ、わめけ!生きる気力ないくせに、命乞いはできるんだなぁっ!!!」
「ひいぃぃぃ…」
「どうだ、お前をいつでも地獄に送ってやれるぞ!…覚悟しな、このデブ!」

「は~い、カット!そこまでぇ」
「お疲れさまでぇす」
「お疲れでーす」
「あ、さえきさん、良かったよ、いまのシーン、死神に怯える表情、迫真的だったね!」
「あ、ありがとうございます」
「中村さん、メイク落とし入りまーす」
「あ、じゃあ、さえきさん、どうもでした!」
「あ、どうも。中村さん、ありがとうございました」
「ありがとうございました」
「きょうで撮影ラストですから、あしたは間違えて来ないでくださいね。あした来ても誰もいませんから」
「中村さん、中村さんはあしたからどうされるんですか…?」
「ぼく?いや、ぼくは予備校で仕事あるから、新宿に出ますけど…。あ、さえきさんは…?いま、無職なんでしたっけ?」
「は、はぁ。い、一応そうです。無職で、うつ病の治療中です。傷病給付金もらって、なんとか生活してます…」
「それは、大変ですね」
「4月には給付金の支給も終わるんです…」
「そうですか。がんばりどころですね」
「はっ、はい…」
「次の仕事は考えてるんですか」
「やっぱりITかなぁ…と」
「そうですか。」
「もうしばらく実家で暮らすつもりです」
「そうなんだ。じゃあ、また新所沢で飲みましょうよ」
「そ、そうですね。」
「あのう…」
「なんですか?」
「鳥餅を使うシーンって撮らないんですかね?」
「あー、どうなんだろう。それは監督に訊いてみないと分からないですね」
「そうですよね…」
「訊いてみましょうか…」
「いや、良いです。どうせ、何もかもどうにでもなってしまえ、と思っているんですし…」
「え?」
「それにしても、最近のやる気の無さにはほとほと困っている。簡単に言えば、朝、目覚めた瞬間から何もしたくないのである。そしてやたら寝る。昼間であろうと、夕方であろうと隙あらば必ずうとうとしている。こんなだらしのない日があとどれだけ続くのだろうか。考えるだけで頭が痛い。やる気がなくても、とにかく行動せねばわずかなやる気さえ出てこないのは分かっているが、やはりできれば死んでしまいたいなという気持ちも意図せず沸き上がってきたりして、実に始末に負えないのであった」
「さえきさん…?」
「はい」
「頭大丈夫ですか?」
「いや、もうよく分かりません」
「ちゃんと病院に行ってますか?」
「はい、月に2回、品川の精神科に通ってますが…」
「いまみたいな独白、よくされてるんですか?」
「えっ、うーん、どうなんだろう…?よく分からないです」
「さえきさん、やっぱり折角だから、自分のそういう病の日々を書き留めておいたほうが良いんじゃないですか…?」
「そうですかね。」
「タイトルは…そうだなぁ、ぬけがら、なんてどうでしょう」
「ぬけがら…あぁ、それは良いですね。いまのわたしにぴったりだ!」
「完成したら、ぜひ読ませてください!」
「わ、分かりました。が、がんばります!!」
「じゃあ、また」
「あ、ありがとうございました。さようなら」

(おわり)