「鳥餅ですって?」とわたしは思わず訊いた。
 「はい、鳥餅ですよ。駅前の西友で売ってます」。中村さんはうなずきながら答えた。
 「その鳥餅でいったい何をするのですか?」
 「先ほど言った通りです。さまよえるさえきさんの魂をうまく取り持つんです」
 「鳥餅ゆえに?」
 「そうですね!鳥餅で、さまよえるさえきさんの魂を、魂の入れ物に定着させるんです。アキャラカホイ!」
 「な、なんですか、突然。そのアキャなんとか、というのは?」
 「これはさまよえる魂をさえきさんの肉体へと導く祈りの掛け声です!!」中村さんは力強く言った。

 「いったいどうなってるんですか?魂をうまく取り持つ鳥餅だの、祈りの掛け声だの、そんなもので、わたしが、わたしが少しでも生きやすくなるとでも!?」
 「生きやすくなるも、ならないも、さえきさん、あなたの心がけ次第ですよ。多くのものを求めてはいけません。多くのものを求めれば求めるほど、あなたは苦しむことになります…!」中村さんは淡々と答える。
 「ん………まぁ、いいや。じゃあ、駅前の西友に行きましょうよ。そこにわたしの魂を救う鳥餅があるんでしょう?」
 「特別な鳥餅ですからね。ひとつ、21000円です。ちょっと高いですが、この値段でさまよえる魂を取り戻せるんですから、ここは是非とも全額ご負担頂きたいところです」
 「鳥餅たったひとつで21000円ですか?高いなぁ」
 「さえきさん、自分の魂を取り戻したいんですよね?」
 「ま、まぁ、そりゃね。実はこうみえて、魂が脱けてるなんて、誰にも言えませんよ、こんな恥ずかしいことはね」
 「ふふっ」
 「わたしにも見栄や世間体というものがない訳ではないですからね!いや、違う。それだけじゃなくて、あぁ、もうわたしは自分がいままさにしっかりとこの大地を踏みしめて生きているという実感が欲しいんですよ。喉から手がでるほど、それが欲しいんです」。わたしはもうどうにでもなれとの捨て鉢な気分で長々と言い捨てた。
 「もう決まりですね」。中村さんはにっこり笑いながら言った。
 「今から鳥餅を買いにいきましょう」。


 わたしたちはロッテリアから出て、店の前の道を横切り、新所沢の駅へ向かった。駅に隣接して西友がある。足早に西友に入ると、中村さんはわたしを先導して、前を歩いた。

 「ここの地下2階が鳥餅売り場です」
 「えっ、地下2階?地下は1階までじゃないんですか?」
 「魂の鳥餅は特別な商品ですからね、地下の特別なフロアにしか置いていないんです」
 わたしは中村さんのあとにしたがって、階段を降りていった。

 「おかしいなぁ。ここの西友に地下2階なんてあったかなぁ」。そうつぶやくわたしを尻目に、中村さんはどんどんと階段を下っていった。鳥餅売り場はたしかに西友の地下2階にあった。明るい。照明がとても明るいが、妙に人気がなくひっそりとしているふしぎなフロアだった。はたして、そこに鳥餅はあった。

 「これが、鳥餅…?」

(つづく)