【ジョモラリキャンプ】ブータンについて---30から続く
(本文、デジタル画像編集、構成/東間 嶺、以下すべて同じ)
馬の優しさ、人間の優しさ
私がひとりでトレッキングを計画したのだと言うと、どうやって手配したのか聞かれた。私はひとりなのでブータン人のチームメンバーと交流する機会には事欠かなかった。ローカル志向の強いトレッカーには、うらやましい条件だったのだと思う。
トレッキングのグループが何組もいるので、キャンプ地には荷役の馬もたくさんいた。そのうちの一頭が、立ち話をする私たちの所に来た。馬たちはおとなしい。この馬もおとなしくて、トレッカーたちは口々に「かわいい」と言いながら馬を撫でた。
確かに馬たちはいつも静かで従順で、「かわいい」と言ってもいいのかもしれない。馬はブータンの山や村の生活に欠かすことができない存在で、人々は荷物を積んだ馬と歩き、苦労を共にする。かわいがるためだけの愛玩動物とは違うし、馬たちと本当の苦労を分かち合っているわけではない私に、無責任な愛情を注ぐ資格はないような気がした。だから私は、その馬を撫でなかった。 » すべて読む