ナレーター「時は江戸1092年。日清戦争で露国に勝利した日本帝国は、米中日共同平和協定の名を借りた不平等条約を破棄し、新生ジオン皇国として三国に対して独立戦争をしかけた。いわゆる「オクニの乱」である。日清の英雄、紅の軍神こと大塩平八郎中将がこの時発したとされる「私はブレックファーストでスシを食いたい」という言葉は、後にブレシスというスローガンとなってメキシコ革命を導いた革命戦士たちを激励したことを、人々はまだ知らない。ジオン皇国は量産型有人機動兵器、通称モビルスーツを開発・投入し、戦況は一気にジオン有利に流れるかと思いきや、米中で共同開発された超遠距離対応の核弾頭ミサイルを活用したトランジスタ・トライアングル作戦によって、戦闘は更に熾烈を極める。両国の死者・行方不明者数は数えうる限りで800人を超えた。そして、今日も男達の戦いは続く」


六兵衛「てえへんだ、てえへんだ、てえへんだ!!」

お花「どうしたんだい、六兵衛さん。そんなに慌てて、お天道様が江戸のお城に落ちてくるみたいな形相じゃないかい。はい、お水」

六兵衛「ありがとう、お花ちゃん。(水を捨てる)ぷはあ、生き返るよ。お花ちゃんが入れてくれた水は、特別おいしいね、まるで京都の岩清水だ」

お花「ありがと。で、何が「てえへん」なのかしら? どうせカラスがあんたんちの九官鳥でも苛めてたんでしょ。だから、九官鳥なんて飼うのは止して、靴下を飼えばよかったって何べんも言ったじゃない。ほら、見てご覧よ、あたしんちの、藍色の靴下は、今縁側で隣りんちのパピヨンと遊んでて、藍色が濃い紫になってとってもかわいいでしょう。餌だって晩御飯の残り物でいいんだから。この前なんか、鯖の味噌煮をばりばりいって骨まで食べちゃって、かわいいったらありゃしない」

六兵衛「なんでえ、またお花ちゃんの靴下自慢かい。そりゃあ、もう耳にタコができるくらい聞かされたあな。大変なのは、そんなことじゃねえ。聞いて驚くんじゃねえぞ? なんと、八十年前、全国蝦夷魔法組合の中でも特選されたSS級魔法使いが十人がかりで比叡山に円陣封印した、魔法怪獣バハムートの結界。こいつが地球温暖化によるオゾン層の破壊で破れかかってるって、長屋の安さんが森の精霊魔法で召喚したエルフィネーぜが予言したんだ! 今じゃ町中みんなしてこの話で持ちきりさ」

お花「えっ、バハムートですって? それって東方の英雄メンティラヌス大帝が5万の部下の兵士の命を犠牲にして、しかも伝説の剣オルハルコンと魔弓シャイニングロッドという「三種の神器」のうちの二つも使ってやっと倒したという、「血の霙月夜事件」のあのバハムートのことをいっているの?」

六兵衛「そうさ。立花隆がインドネシアへエイズ調査へ行く飛行機の中で、たまたま席が隣りになった四国生れでハンバーガーが大好きなアフリカ系コルシカ人、あのバハムートのことを言っているのさ」

お花「な、なんてこと……。立花隆でも歯が立たなかった、べヒモスと並び立つ最強魔怪獣なんて、一体どうしたらいいっていうの!?」

六兵衛「だからこそ、親方のお知恵を拝借しようって寸法さ。いま、旦那何してる?」

お花「座敷で靴下のマグカップを作ってると思うけど…」

六兵衛「旦那ぁー、まどかマギカ旦那ぁー、そこにいらっしゃるでしょう、ちょいと話を聞いて下さいよ。もう頼れるのは魔法少女まどかマギカの旦那しかいないってくらい事は切迫してる次第でー」

(奥の襖からまどかマギカ登場)

まどかマギカ「なんじゃい、騒々しいと思って来てみれば、六兵衛、お前じゃったか。切迫だの何だの物騒な言葉が聞えて、はていったいどうしたことだろうと、心配して損したわい。どうせ、お前のことじゃ、カラスかなんかがお前んちのピグミーをいじめたりしたんじゃろ。だから、ペットブームに乗ってちょっと他人とは違う個性的な海外種をこれみよがし飼うのは、止しなさいと口を酸っぱくして言ったではないか。個性的なペットは飼い始めは友人たちからちやほやされていいものの、そのうち斬新さも薄れ、勿論、ゴールデンレトリーバーには敵わず、しかも生育方法も十分インフォメーションされておらんから、結局飼い主の手に余る事態になるものじゃよ。お主が飼うべきじゃったのは、そうさな、手袋なんかいいんじゃないかい。手袋はいいぞう。初めのうちは人見知りでなつきゃせんが、それでも日向ぼっこしてりゃこそこそとよってきて、丸くなって、ごろにゃーんといって甘えてきよる。冬は手にはめりゃあったかいしな。どれ、特別、うちで生れた子手袋一匹をお前さんにやってやってもいいぞい」

六兵衛「へっへっ、旦那、相変わらずですね。ご丁寧なお節介、有り難く頂戴いたしますが、でも切迫してるのはペットの件じゃあなくって。実はバハムートの封印が破れかかっているってお話で」

まどかマギカ「なんじゃい、バハムートのことか。新聞で読んだから知っておるよ。なんでも、バハムートの発する魔法オーラが集中して高霊圧の魔法雲になって異常気象の危険性があるとかないとか。それによって養殖ウナギが全滅してしまって、今年の夏はウナギが高騰し、食卓を直撃するウナギデフレが起こるかもしれんという噂じゃのお」

六兵衛「旦那、「噂じゃのお」なんて、暢気に言ってる場合じゃありませんぜ。今こそ、「伝説の三魔人」が一人、魔法少女まどかマギカの出番じゃありませんか! マギカの屋号を受け継いだ者だけが使える窮極魔法「パピヨン・ピヨヨヨーン」で、あの怪物を再び比叡山の頂きに封印しなけりゃ、世界は破滅ですぜ」

まどかマギカ「ほっほっほっ。六兵衛や、お前さんも知っておろうが、わしゃあ、四十年も前にもう魔法少女を引退した身の上。今じゃただの、お茶が好きな町の優しい隠居じゃよ。この老いぼれに、世界の危機が救えるなんざ、買いかぶりもいいとろじゃ。外をあったっておくれ」

お花「そうよ。今のおじいちゃんに世界を救うなんて大業、そりゃ無理ってものよ」

六兵衛「だんな~」

???「くっくっく、見ないうちに随分弱気になったものだな、まどかマギカよ。六兵衛、そんな老いぼれに頼ることはないぜ。この俺がいる限りはな」

六兵衛「何奴!?」

BMM「黒炎に燃える邪眼は全てを焼き尽くす。俺の名はブラックまどかマギカ、この世界に闇をもたらすものだ」

まどかマギカ「お、お前は……!? まさか生きていたなんて」

BMM「ふっふっふ、久しぶりだな。まどかマギカよ。いや、当時のように兄さんと呼んだ方がいいかな。積年の恨みを晴らすために、地獄の釜の底から這い上がってきたこの俺を思い出すためにはな」

お花「えっ、兄さんですって!?」

まどかマギカ「そうだ。先代まどかマギカには二人の弟子がいた。わしとこやつ、徹とシュミットじゃ。シュミットは幼い頃から、並外れた魔法力を備えていて、史上最年少、37歳で中忍試験をパスした天才的な才能の持ち主じゃった。全盛期のわしでさえ、奴の得意技「火遁・真空炎斬拳」を破るのは至難じゃった。しかし、先代は人々の笑顔を守るために魔法を使うべしという魔法使い協定第四条を無視するあやつの邪悪なオーラに早々に気づき、マギカの屋号をわしの方に託したのじゃ。シュミットは失意の末、イラク魔法戦争の戦列に加わり、そこで核燃料サイクルの爆発事故に巻き込まれて死亡したと風の噂で聞いておったが……まさか、生きておったとはな……」

六兵衛「その邪眼、たしかに聞いたことがある…。黒魔術がポテンシャルを100パーセント発揮できるのは、元来、土属性と水属性の奥義だけ。しかし、謎めいたことに、左目が赤く燃えている黒の魔術師が、火属性の上級魔法を使って、地中海でスペインの一個小隊を全滅させたとか……それがお前だというのか……しかし、なぜ火属性の奥義が……まさか、核エネルギーをつかって生得的な奥義適正を強引に拡張したというのか!……原理的には不可能ではない! しかし、そんなことをすれば術者の魔術は勿論、命さえ危くないはず!」


BMM「(拍手しながら)はい、せーかーい♡ ぼくの死にたくなるような後遺症の苦しみは分らないだろうけど、でもきみ、結構いい線いってんじゃん。頑張ったご褒美に、もう一つ教えてあげるよ。黒魔術師が通常ポテンシャルを100パーセント引き出せる奥義は土と水の二つだけ、僕の場合はこれに火が加わるわけだけど、さて、土と水と火を混ぜ合わせたら、なにができるでしょーか? はい、そこのきみ!」

お花「……あっ……パンケーキ!!」

BMM「またまた、せーかーい。みんな頭が良くってぼく助かっちゃうよ。そうさ、ぼくは三つの系統の奥義を同時に使用することで、パンケーキを最大五枚召喚することができる。即ち……」

六兵衛「……ホットケーキができあがる」

まどかマギカ「この外道が」

BMM「ふっふっ♡ もう言わなくても分るよね。だってホットケーキに勝る召喚獣は、伝説のブリザードウルフ、ナタデココしか存在しないんだから。でも、あれはホラティウスの伝説にすぎない。ってことは、必然的に僕のホットケーキが最強ってことになる! 最強! 最強! 最強! なんて甘美な響き! ほら、想像してみてよ。あっつあっつでふわっふわっの生地に、とろっとろっの蜂蜜を皿からこぼれるくらいにぶっかけて、ダイヤモンドかと見間違える丸くて真白なバニラアイスを乗っけて、一つまみのハーブを添える……。どうだい、君たち庶民にもこの神々しさが分るだろう。そう、僕の「アトミック・ホットケーキ」なら、バハムートなんて一瞬で殺してみせるさ。ぼくがこの世界を救ってみせる。まどかマギカの屋号などもういらない。ホットケーキを自由に扱える、ブラックまどかマギカがこの世界に正義と秩序を与えてやる。そして、そのためには……」

まどかマギカ「……なるほど。狙いは三種の神器の最後の一つ、パプリチョーゼの靴下というわけか」

BMM「そゆこと♡♡ パプリチョーゼの靴下を身につけることで、黒魔術師のチャクラ最大使用リミットが臨界解除され、底なしのチャクラで最大パワーの「アトミック・ホットケーキ」がお見せできるってわけ。靴下さえ手に入れれば、あんたなんかもう用無し、ぼくがこの世界を支配してみせる。大人しく渡しなさい、さもないと……」

まどかマギカ「六兵衛には手を出すな。彼がいなくなると、幼い手袋に飯をやる者がいなくなるのでな」

六兵衛「だ、だんなぁ……」

まどかマギカ「いいだろう、くれてやろうぞ、三種の神器の最後の一つ。お花!」

お花「で、でも……」

まどかマギカ「また買えばいいさ。六兵衛の命には換えられん」

お花「う、うん。分った」

(下駄箱から靴下を取り出すお花。それをBMMは奪い去るように手にする)

BMM「ホ、ホ、ホーホァーーホァーー!!!!!!! 何て美しいの!!!!これが三種の神器なのね。 興奮しちゃう、こんなところに隠れていたなんて。ハァハァ。これさえあれば、ぼくのA・Hは完璧なものに!!!!! つけちゃうわよ、つけちゃっても知らないんだからね!!!! ヒャッハーハイハイーハイサーサイヒャー!!!!!!!!!!」

(体から漲るオーラパワーでBMMが発光する)

ネコロボ「ビー・ビー・ビー! エマージェーシー! エマージェーシー! BMMの魔法力が桁違いに上昇しているポヨ。900……1000……1500……4000……まだ上昇するポヨよ……5000……9000……こんな異常な魔法力が存在するなんて、魔法ロボット学校で習ったことないポヨォ……恐いポヨォ~」

六兵衛「旦那ぁ!」

まどかマギカ「黙ってみておれ。じきに分る」

BMM「ヒャッハーハイハイーハイサーサイヒャーポーヒャンダーハイハイポー!!!! な、なんて力なの! 予想してたのの数十倍だわ。この力さえあれば、ぼくに恐いものはない!! あっっは~、ダメすぎるぅ~~ダメ過ぎて逆にヤバイ~~、逆の逆で、バイヤーすぎる~~マジバイヤ~~!!!! ウヒョーォォォォォォ!!! これで世界はぼくのもの。もう誰にもぼくが出来損ないなんていわせない。ぼくが最強。ぼくだけが最強。最強! 最強! 最強! 最強! 最強! 最強! 最強! 最強! 最強! 最強! 最強! 最強! 最強! 最強! 最強! 最強! さいきょ……えっ?(BMMの体が爆発する。BMM死亡)」

お花「な、なにが起こったっていうの!?」

まどかマギカ「リミット解除した己の魔法力に自分の体が耐えられなかったのじゃ。愚かなものよの……もっとも力を求めていた者が己の力で滅ぼされるとは」

ネコロボ「マジック・スタビライザーをつけないでリミット解除するなんて、コイツ頭悪過ぎポヨ。死んでよかったポヨ」


六兵衛「で、でも旦那よぉ。BMMがいなくなったのはいいとして、バハムートの方はどうするんですかい? 地球滅亡の時は刻一刻と迫ってきてますぜ」

まどかマギカ「六兵衛よ、最初から言っておろうな。バハムートなどそもそも始めから存在しておらんのじゃ。嘘だと思うんじゃったら、バハムートのアルファベットを逆にしてHの文字をTに変えて読んでごらん」

お花「バハムート……ムートバハ……ムートニマン……ヒューマン……あっ! 人間!」

六兵衛「……そうか。バハムートとは地球環境の汚染を省みず、電力を原発に依存し、植民地支配とグローバル資本主義を使って、己の利益を追求し続けるエゴイズムに支配されたニューエコノミックな人間の心のことだったのか……」

まどかマギカ「そう。だからこそ、バハムートはどこにも存在しないと同時に、どこにでも存在しうる。人がこの地上に生きている限りは」


ネコロボ「だからこそ、人間には魔法が必要ポヨね!」

まどかマギカ「そうだ。心に刃を立てると書いて、人之を魔法と読む。師匠も言っていた、「魔法がなければ、ホットケーキを食べればいいじゃない」、と。シュミットにはそのことの意味が分らなかったのだ。そして力に溺れた。然り、魔法など現実に存在するはずがない。過ぎ行く日々のなか、目の前に直面してくる問題にひとつひとつぶつかっていって、解決していく。市民個人個人が行うこの小さな積み重ねこそが、やがて魔法に等しい奇跡を起すのだ」

お花「あたし、ペットボトルはちゃんと洗ってから、潰してゴミに出すわ!」

まどかマギカ「然り。それも魔法」

六兵衛「おいらは買い物をするときに、自分のバックもってって、ビニール袋を貰わないようにするよ!」

まどかマギカ「然り。それも魔法」

ネコロボ「AKB総選挙でまゆゆが勝ってくれるように、ICチップを売ってCD沢山買うポヨ~」

まどかマギカ「……然り。それも魔法。魔法世界とはこの世界のことだ。青く美しい地球。この生物の宝物を人間のエゴで勝手に汚してはいけない。そして、私たちはそれに対してできることが、きっとあるはずだ。小さな力でもいい。それが持続し、組み合っていけば、やがて魔法のような大きな力になっていく。君たちはもう、魔法の呪文を知っている。すなわち、「今日できることは明日しない」、人は之を魔法道と呼ぶのだ」


ネコロボ「ポヨヨ~」

お花「ところで、六兵衛さん。あんた、怖いものってある?」

六兵衛「実は饅頭が怖いよ」

お花「へえ。じゃあここにある饅頭の山全部食べていいわよ」

六兵衛「もう全部食べたよ。だから今度はお茶が恐いよ」

まどかマギカ「こやつめ、なかなか、やりおるわい」

一同「アハハハハーアハハハハーアハハハハー」

ナレーション「激闘の果て、なんとか宿敵ブラックまどかマギカを倒したまどかマギカ一行。しかし、死んだはずのブラックまどかマギカが、お花の義理の父、十文字博士によって魔法改造され、ブラックメカまどか2ndとして再び現われることを彼等はまだ知らない。けれども、とりあえずのところ、今の束の間の休息を邪魔する者はいない。英気を養え、まどかマギカ。旅は長く、戦いはお前を見放してはくれない。残る魔法石はあと四つ。ナレーションは私、戸田恵子がお送りしました」