【幸福否定の研究とは?】


勉強するために机に向かおうとすると、掃除などの他の事をしたくなったり、娯楽に耽りたくなる。
自分の進歩に関係する事は、実行することが難しく、【時間潰し】は何時間でも苦もなくできてしまう。自らを【幸福にしよう】【進歩、成長させよう】と思う反面、【幸福】や【進歩】から遠ざける行動をとってしまう。
そうした、不可解な人間の心のしくみに関する研究の紹介。



今回は、笠原氏の心理療法を簡単に説明したいと思います。


  抵抗に直面すること(注1)


核となる部分は、非常に単純ですが、この一言で説明できます。
抵抗に直面すると反応(注2)が出るので、この反応が出るかどうかが、抵抗に直面しているかどうかの目安になります。

冒頭の、「幸福否定の研究とは?」で示す定義や、第1回で引用した笠原氏のテキストが抵抗に直面し、反応が出ている例になります。 


たとえば、締め切り間際にならないと課題に手がつけられない者が、まだ時間の余裕が十分あるうちにその課題に無理やり手をつけようとした場合を考えてみよう。

まず、さまざまな雑念が沸くなどして、その課題を始める態勢に持ってゆくこと自体が、非常に難しいであろう。
机を使う仕事であれば、机の前に坐るまでに、実に長い時間がかかる。
努力の末、ようやく覚悟を決めて座っても、今度は、別のことをしたい気持ちが強く沸き起こってくる。

娯楽的なことをしたくなったり、片づけをしたくなったり、無関係の本や雑誌を読みたくなったり、横になりたくなったりするのである。

これが“現実逃避”とか“時間つぶし” と言われる現象の本質である。

そうした逃避的誘惑を何とかこらえて、無理に課題に取りかかろうとすると、今度は反応が起こるようになる。
あくびが出たり眠気が起こったりすることもあれば、頭痛や下痢や脱力などの身体症状が出ることもあるし、鼻水やかゆみや喘息などのいわゆるアレルギー症状が起こることもある。

(以下略)



これが簡単にできれば問題はないのですが、実際にできる事は、まずありません。
簡単にできないからこそ幸福否定なのですが、治療法として感情の演技という方法を使います。病気が治った場面、試験に合格した場面など、実際は嬉しいはずなのに抵抗があり、素直な感情が沸いてこない問題点を探すのです。

そして実際に、「病気が治って嬉しい」「試験に合格して嬉しい」などの感情をつくってみます。2分間、実際に感情をつくってみると、抵抗に直面するため、反応(集中できない、眠気、あくび、心身の変化)が出ます。

これをひたすら繰り返す事で、抵抗が弱まり、症状や病気だけでなく、自然と様々な事が改善していきます(注3)

簡単に概要を書きましたが、この抵抗反応はいったいどのようにして発見されたのでしょうか。笠原氏は、自身の心理療法を確立する前に、小坂英世という精神科の医師が開発した「小坂療法」という治療法の追試をしていました。


心理学科を卒業し、鳥類の行動観察を目指して北海道に渡った私は、生活のために精神科病院に勤務した。

その年の夏、たまたまそこに研修に訪れた、関西の医学生たちから得た情報を通じて、動物の観察から人間の観察へと関心を移し、その精神科病院で、主として精神分裂病の心理療法を六年近く行ったのが、心理療法の経験の出発点になった。

それは分裂病治療のための、きわめて特殊な心理療法であった。

小坂療法と呼ばれるその心理療法では、症状出現の直前にあるはずの心理的原因を探り出す。分裂病患者はその原因の記憶を"抑圧"しているが、それを推理して指摘し、本人に思い出させると、それに対する反応(強い場合には、驚愕反応)が出現するとともに、一瞬のうちに分裂病症状が消えて正気に戻る。

ほとんどの場合、薬物の必要がなくなるので、ふつうの人が服用した場合と同じように、強い副作用が出現する。そして、患者自身が、その症状出現に至る経緯を物語る事ができる。

「幸福否定の構造」 P31-32

幸福否定の構造
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小坂療法を知った笠原氏の最初の態度は以下のようなものでした。
このときの反応は笠原氏だけに特有のものではなく、小坂療法へのごく一般的な態度だと解釈できます。


その話を最初に聞いた時、私は、分裂病のことなどほとんど知らなかったにもかかわらず、不遜にも、その方法に疑念を抱き、小坂という精神科医は、分裂病のことなど何も知らないのではないかと思った。
(中略)難知性疾患の症状が、そのような手続きだけで、しかも瞬時に消えるはずがない、と考えたからである。また、この手順は精神分析療法とほとんど同じであるし、長年月にわたって、世界中の研究者が必死になって研究を重ねてきているので、その程度のことであれば、これまでわからなかったはずがないではないか。
それが、世間が共有する常識というものであろう。

「幸福否定の構造」 P32
 

しかし、強い疑念を抱いたものの、笠原氏は追試という科学的アプローチで小坂療法への接近を試みます。


とはいえ、そのような常識的判断から離れ、その仮説を自分で実際に追試してその真偽を確認しなければ、本当のことはわからない。それが科学的手順というものである。従来の知識に基づいて論理的に判断しているだけでは、新しい観察所見や仮設は、すべて却下されてしまい、科学の世界に参入することができない。(中略)そのためにこそ、観察や実験を別個に行って、その主張や仮説の真偽を検証するのである。科学はそのようにして進められてきた。

「幸福否定の構造」 P32 
 


今現在、小坂療法は完全に無視され、否定されているような状況です。
しかし、正確に追試をして否定をした例が一つもありません。
物理に例えると、実験もしないで「そんな事があるはずがない」と常識に合わないからと却下されているようなものです。

ここも大きなポイントの一つになります。

次回以降、小坂療法について詳述しますが、その前に、まず"実証主義"について述べることにします。

(続く)



注1
:私の心理療法で言う〈抵抗〉とは、世間の常識や精神分析などの心理療法理論が想定するものとは正反対の概念で、要するに幸福に対する抵抗という意味です。

(引用:心の研究室トップページ 抵抗とはなにか



注2
「反応」…「抵抗」に直面した時に出る症状。眠気、あくび、その他、心身の変化。



注3
:実際に治療として行う場合にはコツや注意点があるので、書籍を熟読するか実際に指導を受けてから始めて下さい。
笠原氏の心理療法については『本心と抵抗』に詳しく書かれています。

本心と抵抗―自発性の精神病理
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