最近ではあまり聞かないが、「24時間戦えますか」とはよく言ったものである。
というのも昨日、カバンの中に読了した本しかなかったので、近くの古本屋で補充した。のが、以下。

【キャッチフレーズの戦後史 】 岩波新書 / 深川 英雄著
  

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100円だったのだが、おそろしくおもしろい。ここ最近で一番のヒットである。父や母が生きてきた時代の空気感のようなものがひしひしとつたわってくる。


内容は、「24時間戦えますか」など、その時代の世相を表すような広告のキャッチフレーズを取り上げて、その時々の出来事を素直に丁寧に解説してくれているという内容。


たとえば、「1姫、2太郎、3サンシーゼリー」。というキャッチフレーズがある。これは戦後の第一次ベビーブームの折りの、避妊薬のキャッチフレーズだそうである。


子供の生み方として「1姫、2太郎」が理想とはよく言われるが、3番目に避妊薬の商品名を持ってくることで、明るい家族計画がテンポよく表現されている。ちなみによく誤解されているが、1姫2太郎は「女の子がひとりで男の子が二人」ということではない。これは「1番目には女の子、2番目には男の子が生まれるのがよい」という意味で、それというのも、女の子の方が夜泣きが少なかったりして育てやすいので、初めての出産は女の子がよいということなのである。さらにちなみに、「1姫、2タク、3ダンプ」というのもある。これは自動車事故を起こしやすい順番で、1番は女性、2番目はタクシー、3番目はダンプカーということである。これは女性はヒステリー持ちで注意散漫になりがちだから、というようなこととされているようであるが、実際に女性ドライバーが事故を起こしまくっているのかはよく知らない。さらにさらにちなみに、ヒステリーというのは古代ギリシア語で「子宮」を意味する「ヒステリア」からきており、ヒステリーというのは子宮からくる女性特有の病気と考えられていた。しかしフロイトの研究によりヒステリーは男性にも起こりうる女性特有の病気ではない、ということになった。って、話を広げまくってしまった。が、どうだ博学だろう。だてに本をたくさん読んではいないのである、と、唐突に自己顕示欲を発揮させていただきました。


まあ、それはともかくこの本、先にも書いたが「父や母が生きてきた時代の空気感」が妙にひしひしと感じられる。モノとともに歩んできた高度経済成長。大量生産大量消費。三種の神器の冷蔵庫、洗濯機、白黒テレビ、それから3Cのカラーテレビ、クーラー、カー。


アメリカに対する強烈なコンプレックス。アメリカのものはすべてすぐれている。「奥様は魔女」だったか、そんなアメリカのホームドラマで見せつけられた圧倒的なアメリカの先進性、パワー、魅力。この著者などは、DDTの粉にまみれた布団の中で「アメリカの素晴らしい効き目の殺虫剤」という気持ちで、安心して眠ったそうである。


とにかくアメリカのようになりたくて、それから欧米のようになりたくて、死にものぐるいでみんなが働いた時代。そういう混沌の時代を移す鏡としての流行語、「オー!モーレツ!」や「アジャパー」、「ハッパフミフミ」。


とにかくは、よくも悪くもモノの時代だったのだ。働くことはモノを作ることであり、それで得たお金でまたモノを買って、またモノを作って、モノを買って。


現代ではちょっと考えられない単純なサイクル。しかし単純だからこそ、そのパワーは半端ではなかったのではないか。


あれが欲しいから働く! これが欲しいから頑張る!


そういう単純なエネルギーの強さは、「働くとはどういうことだろう」「生きるとはどういうことだろう」「お金とはなんだろう」「豊かさとはなんだろう」というような問いの中にどっぷり沈み込んでしまっている現代人とは比べものにならないに違いない。まさにそれは世界が驚愕した絶大なパワーであったのだろう。


そういうふうな感慨をいだきながら読んでいると、学校での授業中だというのに、電車内だというのに、何か妙に胸が詰まってきて、泣きそうな気持ちにさえなってくるのであった。


そのころ、父はどういう気持ちで外で働き、母はどういう気持ちで家を守っていたのだろう。給料は右肩上がり、モノが増え続ける中で、姉が生まれ、ぼくが生まれ、そして車を買ったときは、そこに子供を乗せたときは、みんなでどこか遠くへ行ったときは。


父はそのとき誇らしかったろうか、母はそのとき幸福だったろうか。
姉とぼくはその時分、ただただ無邪気に、わけもわからず、上昇を続ける日本のとあるしがない中流家庭の幸福の一端を演出し、担っていたのだろうか。


悲喜こもごも、今日に続いている歴史、敗戦の虚脱の中、文字通り廃墟の中から始まった戦後。モノが無くて、モノが欲しくて、モノを作りまくって、モノを買いまくって、モノが余って、欲しいモノが無くなって。


われわれは、どこへ行くのだろう。